インド旅行記 ― 第四部 ―

  最終章 ヒーロー

ニューデリーのメインバザールの一角、スターパラダイスホテルで だらだらとテレビを見ていると インドドラマが始まった。 タイトルは「HERO」。 主人公は、もちろんHERO。 主人公は普段はウェイターの青年。 前髪を9対1に分け 丸メガネをかけた、…

  第55章 デリーへ向かう列車

19時15分。 ミッドナイトシヴァガンガーエクスプレス。 列車は定刻どおりにヴァラナシの駅を出発した。 終着駅はニューデリー。 ガタンガタンという列車の鼓動が 徐々に加速しだし 窓から風が入ってくる。 生ぬるい風。 季節は乾季から夏に向かっている…

  第54章 旅の終わり ― in Varanasi 10 ―

「おい、ジャパニ!布を買え! チープな店に連れてってヤル。 シルーク、バンダーナー、ルンギー、コシマキー なんでもあるゾ。」 歯茎を剥き出しにしたしかめっ面のインド人に突然腕を掴まれる。 ヴァラナシの路地をぶらぶらしていると良くあることだ。 そ…

  第53章 変化 ― in Varanasi 9 ―

「マサッカリーマサッカリー・・・♪」 ヴァラナシの裏路地。 前方から若者2人。 ポップなメロディーを口ずさみながら歩いている。 カルカッタのバーで流れていたあの曲だ。 「マサッカリー マサマサッカリー♪」 すれ違いざまに 続きのメロディーを歌ってみ…

  第52章 ハード・ボイルド・ワンダーランド ― in Varanasi 8 ―

「ヘイ!ジャパニ!!ホテェル?!」 「ノーセンキュー。もう宿はとってるよ。」 「オレのほうがグッドなホテルを知ってるゾ! ドコのホテルだ?!」 「モヌーファミリー!」 それを聞くと客引きの男は怪訝そうな顔で去っていく。 世界的旅行ガイドブックの…

  第51章 モヌー・ファミリー・ペイイング・ゲストハウス ― in Varanasi 7 ―

モヌー家の軒先では モヌーのオヤジが寝転がっていた。 4年前より髪の毛は禿げ上がり 身体もさらにまるまると膨らんでいる。 「ハロー、モヌーいる?」 オヤジは眠そうな目をして 寝転がったまま答える。 「モヌーはいま郵便局に行っている。 あと1時間で…

  第50章 ストロングマン ― in Varanasi 6 ―

「ゴー!!」 ウェイターの威勢の良い掛け声と共に勝負開始。 悪ガキVS俺。 インドと日本。 国家の威信をかけた 腕相撲勝負だ。 「ンーーーーーッ!」 悪ガキが歯茎をむき出しにして歯を食いしばる。 なるほど。 勝負を挑んでくるだけあって そこそこ腕力…

  第49章 レディ・ステディ・ゴー ― in Varanasi 5 ―

モダンヴィジョンゲストハウス。 プージャゲストハウスを出てオムゲストハウス、ヨギニレストハウスと回り ヴィシュヌレストハウスで満室だと門前払いされ クミコハウスを外観だけ眺め 最終的に今日の宿に決めたのがここだ。 アパートのような造りのかなり古…

  第48章 8年後のシルク売り ― in Varanasi 4 ―

午前8時起床。 カーテンを開け バルコニーへ出る。 柔らかい日差し。 今日は良く晴れている。 眼下に流れるガンガーには 既に数隻のボートが浮かんでいる。 ボートが起こすさざ波は陽の光を受け きらきらと銀色に輝く。 まだ熱されていない朝の風は 爽やか…

  第47章 再会 ― in Varanasi 3 ―

迷路のようなヴァラナシの小路を抜けていく。 モヌーの家の向かいのヨギロッジを目指すが 一向に辿り着かない。 陽のあたらない道と汚れた壁と牛の糞。 同じような場所ばかりをぐるぐるしている。 物売り、牛飼い、一般人。 そこらへんのインド人に ヨギロッ…

  第46章 不浄の川 ― in Varanasi 2 ―

軸足に体重を乗せ 迫り来るボールから目を逸らさず 足、膝、腰の順番に回転させ このオールのように平たいバットを振り抜く。 カニャークマリの時と同じ轍は踏まない。 絶対に打つ。 俺は断固たる決意を固め打席に入った。 大人気ないことに相手は少年達。 …

  第45章 因果 ― in Varanasi 1 ―

列車が鉄橋を渡る。 眼下には聖なる河、ガンガーが流れる。 相変わらず流れの向きが良く分からない河だ。 むしろ流れていないようにも見える。 時刻は朝10時を過ぎ 河のところどころはきらきらと陽の光を弾いているが それでも光を飲み込んでいる部分のほ…

  第44章 それでも列車は走る

ハウラー橋を渡るとき タクシーの窓からカルカッタの街並みが見えた。 河の向こうに浮かぶ街並み。 薄闇のなか ぽつぽつと橙色の明かりが灯っている。 妙に感傷的な気分になる。 タクシーに乗っているからだろうか。 タクシーは駅に向かい、駅からは列車が出…

  第43章 ロープと酢豚とチケットと ― in Calcutta 5 ―

物干し竿のような錆びた鉄の棒に ロープがぶら下げられている。 喫煙所として立ち寄った売店の横。 最近はインドでも喫煙者は肩身が狭く 特にカルカッタのような都市部では歩きタバコなど厳禁だ。 とりあえずタバコを売っている店や人の周りでは吸ってもいい…

  第42章 リットンホテル ― in Calcutta 4 ―

その日の夜は 3人でバーに行くことにした。 10年間想い続けたカルカッタは 期待を大きく裏切ってはいたものの 悪い街というわけではなかった。 タイを旅する旅行者達がインドのゲートシティに選ぶのも頷ける。 だが、暇だ。 カルカッタで一番アツイのは早…

  第41章 サダルの西 ― in Calcutta 3 ―

サダルストリートを西に向かって歩くと チョウロンギ通りにぶつかる。 カルカッタの目抜き通りであるチョウロンギ通りを横切った先に広がるのが 市民の憩いの場でもあるモイダン公園。 野良ヤギもいるらしい。 そして、モイダン公園を抜けたところに フーグ…

  第40章 サダルは ― in Calcutta 2 ―

カルカッタのサダルストリートで朝を迎える。 窓が小さいせいか そもそも宿自体が近隣の建物の陰になっているのか 日差しは部屋に入ってこない。 目が覚めたのが思いのほか早かったので 朝食を採りに出かけることにする。 ジョジョスへ。 夜遅くサダルに到着…

  第39章 サダルへ ― in Calcutta ―

20時 列車はカルカッタのハウラー駅に到着した。 ホームに降り立ったときの騒がしさから かなり巨大な駅であることがわかる。 改札を抜け 駅構内に到ると、案の定たくさんの人でごった返していた。 僅かに残された通路以外の床は 寝ている人、 食事をして…

  第38章 そして少年は一握りの

赤い顔 青い顔 両方の色を塗りたくったのだろう、紫色の顔。 50ccのバイクに3人乗り。 カラフルなオヤジたちが目の前を通り過ぎていく。 売店、食堂、ホテル 店舗の種類に関わらず 軒並み下ろされているシャッター。 オレンジ色の野良犬がふらふらと道…

  第37章 ディレイド・ホーリー

朝、いつもと同じように目を覚ます。 目覚まし時計に害されない 清々しい朝だ。 3人それぞれが いつもと同じように 各々のタイミングで自然と目を覚まし 目を覚ました順から 水を飲み タバコに火を点け 取り留めのない会話を始める。 朝のチャイでも飲みた…

  第36章 招かれざる男 ― in Bhubaneswar 2 ―

ついに我々の部屋に灰皿がやってきた。 そしてあの男も再び我々の部屋にやってきた。 180センチはあるだろうか。 がっしりとした体躯。 浅黒い肌に浮かぶ ぎょろりと丸く 血走った目。 げじげじと伸びた眉。 いつもニヤニヤした口元にかかる 下品な口ひげ…

  第35章 めくれたオレンジ

朝、チャーイのみで簡単に朝食を済ます。 今日はホーリー。 手元には列車のチケット。 行き先はブバネーシュワル。 出発は今日の15時。 列車は・・・危険だ。 8年前の記憶が蘇る。 列車が踏み切りで減速した一瞬の隙に 後部座席で悲鳴が起こった。 窓から…

  第34章 ホーリー・イヴ

おかしい・・・。 静かだ。 町が全然騒がしくない。 今日はホーリーイヴのはずだ。 そして明日はホーリー。 この日ばかりはカーストも貧富も関係無く インド中で人々が色水や色粉をぶつけ合う インドで最もファニーでエキサイティングなフェスティバル。 今…

  第33章 ラヴ&ライフ

バックパッカーの聖地と呼ばれる場所がある。 ネパールのポカラ かつてのカオサンロード カッパドキア、フンザ、アンティグア、大理 そしてインドでは西のゴアと 東のプリー。 聖地の条件、ないし特徴として 物価が安く、飯が美味く、 願わくば風光明媚で観…

  第32章 海とオムライス

海へ向かう列車の終着駅。 プリーという町はそんな印象だった。 町というより漁村といったほうが良いかもしれない。 駅前を離れ歩き出すと 本当にのんびり穏やかな町だという印象を受ける。 自転車が多い。 サイクルリキシャーも多い。 オートリクシャーも少…

  第31章 オリッサの風

列車は1時間遅れて ブバネーシュワルの駅を出発した。 目的地はプリーだ。 プリーは聖なる河ガンガーの水が海へと還る場所。 ヒンドゥー「四大神領」のひとつ。 つまり、ヒンドゥー教徒が一生のうちに訪れるべき最も神聖な巡礼地、 神が住まう、インドに4…

  第30章 煙を吐いても ― in Bhubaneswar ―

掃除のおばちゃんが 竹ぼうきでせっせと床を掃除している。 所在無い我々はベッドの上。 天井ではプラスチック製のファンが不安定に空気をかき回している。 ここはホテルSWAGAT。 この宿に我々を連れてきたサイクルリクシャーのおっさんは 確かグッド…

  第29章 イースト・コースト・エクスプレス

列車はオリッサへと向かっている。 朝10時にハイデラバードを出発した列車は 明日朝7時25分に オリッサ州の州都ブバネーシュワルに到着予定だ。 7時25分だって・・・? 平気で1時間も2時間も列車が遅れるインドで 5分単位の調整がきくのか甚だ疑…

  第28章 数え切れぬ夜を越えて 僕らは強く 美しく ― in Hyderabad 6 ―

高地にあるおかげで 湿気はそれほどでもないハイデラバード。 それでも歩いていると Tシャツには汗が滲むし この街の喧騒は 祭りの夜に似ている。 つまりは絶好のビール日和。 チケットを予約しまくるという 大仕事を終えた我々は BARを探すことにした。…

  第27章 列車王 ― in Hyderabad 5 ―

「・・・やっぱりやばくない?」 宿に戻った我々の話題は もっぱら列車のチケットについて。 ウェイティングリスト 残り10。 出発は明日の朝。 明日、予約オフィスが動き出してから 出発までのわずか2時間ほどの間 その間にあと10人 キャンセル者が出る…