第39章 サダルへ ― in Calcutta ―


20時
列車はカルカッタのハウラー駅に到着した。


ホームに降り立ったときの騒がしさから
かなり巨大な駅であることがわかる。
改札を抜け
駅構内に到ると、案の定たくさんの人でごった返していた。
僅かに残された通路以外の床は
寝ている人、
食事をしている人、
座って列車を待つ人で埋め尽くされている。
つくづくインドの駅では
こういった下手したら何日かここで生活しているんじゃなかろうかという人が多い。
彼らにとって列車の旅というのはやはり人生の一大イベントなのかもしれない。



カルカッタでの目的地、滞在場所は決まっていた。
サダル・ストリート。
インドの個人旅行者なら
恐らく誰もが知っている有名な通りだ。
安宿が並び、安食堂が並び、闇両替が散在し、
バックパッカー達が彷徨い、売人達が溢れ、物乞い達があぶれる。
19世紀のイギリス人をして「この宇宙で最悪の場所」と言わしめたカルカッタ
その縮図があるであろうサダルストリート。
初インドの時、
デリーのメインバザールや、チェンナイのケネットレーンで味わった刺激に
あの熱にほだされたような感じにもう一度出会えるはずだ。


エンクワイアリーで
プリペイドタクシーのチケットカウンターの場所を尋く。


「アウトサイド!」
外の方を指差し
極めてアバウトに場所を教える係りの女性。


「えっ?こっち?外のどこ?」


「アウトサイド!」


「あぁ、そう・・・。」


そりゃ外なんだろうけど・・・。


とりあえず言われたとおりに外に出てみると
すぐにチケットカウンターが見つかった。
あながち不親切な案内でもなかったようだ。
カウンターの前には行列が出来ている。


列の最後尾に並び
2分もすると
ふいに横にヒゲ面のインド人が立つ。


「ヘイッ!ヘイッ!!」


なんだよ・・・?


「タクシーッ?!」


どうやら流しのタクシードライバーのようだ。


「サダルまで150ルピーだ!カモンッ!」


いや、だから今プリペイドタクシーに並んでんじゃん。


「オーケー!オレとオマエはフレンドだから
 140ルピーでいいぞ!!カモンッ!!」


いや、プリペイドなら65ルピーだし。
なんで倍以上の金払って
怪しい流しのタクシーに乗らにゃならんのだ。


「50ルピーなら乗るよ。」


「ノーノー120ルピーだ!ベストプライスだ!カモンッ!!」


「だってプリペイドなら65ルピーだぜ?!」


プリペイドはノーグッドだ。オレのタクシーのほうがグッドだ。100ルピーだ。ラストプライス!カモンッ!!」


根拠が分からん。
こうした不毛な交渉を続けているうちに
列も詰まってくる。
前に並ぶのが5人を割ったころ
流しのドライバーはあきらめて去っていった。



カルカッタは大都会だった。
タクシーのフロントガラスを
強烈なヘッドライトの光が次々と過ぎていく。
道路の幅も広く、サイクルリクシャーはおろか
オートリクシャーすら見当たらない。
もちろん野良牛などいない。
走っているのはタクシーとバス、
そして数台の乗用車。
フーグリー河にかかるハウラー・ブリッジは
封鎖出来ないほど鮮やかにライトアップされ
新旧様々な高層ビル
立体交差点
なにより信号が多い!
しかもみんな信号を守っている!!


15分ほどしてタクシーが止まった。
サダルストリートに着いたようだ。


タクシーを降りた瞬間
ある違和感。


足の裏に伝わる
地面の硬さ。
・・・舗装・・・されている。
しかも明るい。
夜だというのに明るい。
もちろん電球の明るさだが
ケネットレーンより遥かに明るい。
むしろ煌びやかな気さえする。
道も、町並みも綺麗だ。
牛もいない。
ホーリーの余韻もどこにもない。
髪や服がオレンジに染まっている馬鹿は
我々日本人3人だけだ。


ここが・・・サダルストリート?!










つづく