第40章 サダルは ― in Calcutta 2 ―


カルカッタのサダルストリートで朝を迎える。
窓が小さいせいか
そもそも宿自体が近隣の建物の陰になっているのか
日差しは部屋に入ってこない。


目が覚めたのが思いのほか早かったので
朝食を採りに出かけることにする。
ジョジョスへ。
夜遅くサダルに到着した昨日
夜食でペンネを食った、こじゃれたレストランだ。


昨夜と同じく木の階段を上り
昨夜と同じく木のテーブルに座る。
昨夜23時まで階段を全力疾走で上り下りしていた壮年のウェイターは
今日も朝から元気に走り回っている。
両手にのせた皿やグラスがカチャカチャと
危なっかしくて仕方が無い。


朝食として
バナナやらマンゴーやらココナッツやら
ヨーグルトやらシリアルやらミルクやらを
無理やりミキサーでごちゃ混ぜにしたどろりとした液体を平らげる。
これは別々に食ったほうが確実にうまい。



ここカルカッタで午前中にやっておくことがあった。
帰りの便のリコンファーム(予約再確定)だ。
インドに限ったことではないのだろうが
田舎にはなかなか航空会社のオフィスが無い。
特に今回利用したキャセイパシフィックのようなインド国外の航空会社の場合
都市部にしかオフィスが無いことが多い。
リコンファームは電話でも出来るが
英語に自信の無い我々は
確実を期すため直接オフィスに赴くことにした。


サダルからも近いパークストリートから
地下鉄に乗ることにする。
インド初の地下鉄だ。
地下鉄駅は外界の灼熱の日差しから遮断され涼やかだった。
切符売り場では長い白髭を蓄えたおじいちゃんが
チャイを片手に面倒くさそうに座っている。


「モイダン!」
と行き先を告げると
「4ルピー!!」
と返される。
4ルピーを支払うと
おじいちゃんはチャイをすすりながら
無言で切符を放り投げる。
お役所仕事にも程があるだろう。



キャセイのオフィスでリコンファームを無事済ませ、
マックで昼食。
入り口で空港のような身体検査を受け
エアコンがガンガンに効いた店内に入り
牛肉も豚肉も無いメニューの中から
地下鉄の運賃の25倍もする100ルピーのセットを選び、頬張る。
出口にもガードマン。
やはり未だにインドでマックは中級レストランぐらいの権威があるらしい。



昼飯を食った後は一旦宿に戻る。


サダルストリートは「良い」通りだ。
道路は舗装され、人通りも割りに少なく、割りに綺麗で、
売店も多く、安食堂も、安宿も多く、ネットカフェも充実。
飲み物もタバコもお菓子も
その気になればハッパもチョコも簡単に手に入る。
そこにはデリーのメインバザールのような猥雑さも無く
ヴァラナシのガートほど物売りもおらず
チェンナイのエグモア駅周辺ほど物乞いもいない。
ハンピやエローラのように見所がある訳でもなく
ハイデラバードのチャールミナール前のバザールほど活気も無い。
美しい夕陽も無い。
話に聞いていたもの、想像していたものと大分違う。
人口5000万人弱を抱える大都市、カルカッタの中で
かつてのサダルストリートは
いまや外国人観光客のために意図的に残された観光地のようだ。
インドの貧困や、汚さや、安さや
バックパッカーが陥りがちな「怠惰」という状況が疑似体験できるテーマパーク。
サダルは、カルカッタ
変わりつつあるのかもしれない。


そんなサダルでは午後にもなるとすることが無い。
U君はぶらぶらしてくると宿を出て行った。
ナベタクは昼寝をするらしい。


天井では緩やかにファンが回っている。


俺は・・・
河でも見に行こうか。










つづく




The NAF in the SweLL パウ】