第50章 ストロングマン ― in Varanasi 6 ―


「ゴー!!」


ウェイターの威勢の良い掛け声と共に勝負開始。
悪ガキVS俺。
インドと日本。
国家の威信をかけた
腕相撲勝負だ。


「ンーーーーーッ!」


悪ガキが歯茎をむき出しにして歯を食いしばる。
なるほど。
勝負を挑んでくるだけあって
そこそこ腕力はある。


だが


ぬるいわぁ!


そうは言っても所詮中学生程度の腕力。
大人げなくも軽くひねりつぶす。


「ユー ウィン!」
ウェイターが判定を告げる。


「ダメダメダメ。今のはナシねー。」


は?
ここで物言いが入る。
悪ガキが言うには
左手をテーブルに乗せたり
身体を傾けたりするのは反則らしい。


「え?そうなの?日本ではこうだぜ?!」


「ノーノー。インドスタイルはこうねー。
 レフトハンドはここねー!
 身体はストレートねー!
 腕の力だけでやるねー。」


どうやら左手は腰の後ろに回し
身体は倒さず、まっすぐのまま勝負するらしい。
隣のウェイターも
こうだこうだと左手を背中の後ろに回す格好をする。
・・・おまえさっき俺の勝ちだって言ってたじゃねえか。


「オーケー。じゃ、再戦だ。」


左手を後ろに回し、再勝負開始。


「レディ・・・ゴー!!」


インドスタイルでやったとしても
さすがに子供の力は知れている。
左手を後ろに回して
身体はまっすぐなままというスタイルは
ずいぶん窮屈だがまぁそれでも・・・
って、


「おまえ、めっちゃ身体倒してるじゃねぇか!!」


組まれた手から目線を上げると
歯を食いしばって身体をおもくそ倒している悪ガキ。
もはや身体がテーブルの下に隠れそうな勢いだ。


「このくそガキがぁ!!」


この学習能力とズルさとしたたかさはたいしたもんだが
その反則にも屈せずインディアンスタイルでも勝利。


「ユーアーストロングマーン!」


試合後、笑顔で握手を求めてくる悪ガキ。


「おまえもあと2、3年もすれば
 俺よりストロングになるよ。」



その後料理が運ばれてきて
パンジャブ地方風のターリーと
グジャラート地方風のターリーを各自平らげる。


そして会計。


「おまえら、ペプシの金は?」


「無い。ギャハハッ。」


「無いじゃねぇよ。」


案の定、悪ガキ共が頼んだペプシの代金をおごることになる。



店を出た途端
次はシルクの店に連れて行こうとする悪ガキ共。
紹介料目当てだろう。


「昨日、ホテルたくさん案内したねー。
 今日もゴハン案内したねー。
 でもお礼なんも貰ってないねー。」


出た。
ヴァラナシでの王道パターン。
ガート沿いを歩いていていきなり腕を掴まれ、揉まれ
マッサージ代を請求されるのと同じく
頼んでもいないのに勝手にいろいろやって
見返りを求めるという新ビジネスモデルだ。
出会ったころからこの展開は読めていたが
ここで持ってきたか。


「ほぅ。おまえなかなか面白いことを言うな。
 おまえ俺から100円貰っただろ?
 あとさっきペプシも飲んだだろ?
 なにも貰ってないって言うんなら返してもらおうか。」


すると悪ガキは『しまった』という表情を浮かべ
「オーケーオーケー、じゃあね。」
と苦笑いを浮かべ去っていった。


少し離れてから振り返り
手を振る悪ガキ。


「またねー。タカーギー。」


「タカギじゃねーよー。またな。」



さて
今日は3人でモヌーの家に行ってみよう。










つづく