第41章 サダルの西 ― in Calcutta 3 ―


サダルストリートを西に向かって歩くと
チョウロンギ通りにぶつかる。
カルカッタの目抜き通りであるチョウロンギ通りを横切った先に広がるのが
市民の憩いの場でもあるモイダン公園。
野良ヤギもいるらしい。
そして、モイダン公園を抜けたところに
フーグリー河がある、と。


ガイドブックを閉じて
手ぶらで宿を出る。



サダルは相変わらず退屈な様相を呈していた。
太陽はまだ高い位置にあるが
それほど暑くは無い。
西へ伸びるこのサダルストリートを抜け
そのままひたすら西へ向かえば
フーグリー河に辿り着くはずだ。
方向感覚さえ失わなければ
迷うことはないだろう。


程なくチョウロンギ通りにぶつかる。
往来の激しいチョウロンギ通りを横切り
モイダン公園に差し掛かる。


公園というにはあまりにも広い。
確か、ガイドブックには南北に3キロと書いてあった。
車やバスがひっきりなしに行き交い
その脇でこれまたひっきりなしに人々が行き交う騒がしいチョウロンギ通りとは対象的に
モイダン公園は日曜日の朝を思い起こさせるほど静かだった。
芝生を伝う風の音でも聞こえてきそうだ。
人通りもまばら。
遠く前方の広場で少年達がクリケットをやっているのが見える。
微かに歓声が聞こえる。


ふいに甲高い音が耳をつんざく。
ガシャンとガラスが割れる音。
足元には割れたペプシの瓶の破片。
ケラケラと笑い声が聞こえる。
振り返ると
こちらを指差し、歯茎をむき出しにして大笑いする子供。
悪ガキが空き瓶を投げつけたようだ。


いや、おまえ、それまじシャレにならんから!


近くにいた大人が「この悪ガキがっ!」といった感じで
右手を振り上げ悪ガキを威嚇する。
悪ガキはケラケラ笑いながら
ぺたぺたと裸足で走り去っていく。



モイダン公園は
東西にも広かった。
クリケットスタジアムの前を通り過ぎ
バスターミナルをくぐり抜け
2キロ近く歩き続ける。
人ひとりやっと通れるぐらいの小さな踏切が現れ
もちろんその隣を線路が横切っている。
単線の小さな線路だ。
踏切内は都会の線路のように
コンクリートで舗装されてはいない。
道床は石。
線路の枕木を踏んだとき
ふと小さいころよく線路で遊んでいたことを思い出す。
線路を渡りきり、少し坂を下ると
こじんまりとした広場に出た。
その先に河が見える。
フーグリー河だ。


河は、鈍色の水をたたえ、ゆったりと流れている。
遠く右手には昨夜渡ったハウラー橋がかかり
その横を大きなフェリーがゆっくりと走っている。


ガートなのだろうか。
広場には2体の神様の像が立っている。
その隣にゴミの山があり
その上にも別の神様の像の首が転がっている。
裸の子供達が走り回っている。
彼らよりは年上の
そうはいっても小学生ぐらいの少年や少女が
汚れた服を着て
せっせと水や花、果物をどこかに運んでいる。
今にも沈みそうな小さな木の船を
必死になって動かそうとしている子供もいる。
河の対岸にはそれを見下ろすような高層ビル。



この河じゃない。


たぶん、俺が見たかったのは別の河だ。
もっと、深い河。










つづく







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