第48章 8年後のシルク売り ― in Varanasi 4 ―


午前8時起床。
カーテンを開け
バルコニーへ出る。
柔らかい日差し。
今日は良く晴れている。


眼下に流れるガンガーには
既に数隻のボートが浮かんでいる。
ボートが起こすさざ波は陽の光を受け
きらきらと銀色に輝く。
まだ熱されていない朝の風は
爽やかで心地良い。
残り少ないインドでの1日の始まりだ。


さて、今日は宿を探さなくてはならない。


元よりここプージャ・ゲストハウスに長居するつもりはさらさら無かったが
昨日のチェックイン時、フロントにいたオーナーが我々にこう告げた。
「おまえらは今日1泊なら泊まってもいいぞ。
 その代わり明日には出て行け。
 今夜から団体の客が来る。」


団体の客と言えば
昨晩、屋上のレストランで飯を食っていたときのことだ。
ひとりの日本人旅行者が
水のペットボトルを携えて我々のテーブルにやってきた。


「すいません。ここ、良いですか?
 なんか向こうに座ってたら
 団体が来るからって追いやられちゃって・・・。」


「どうぞどうぞ。」


確かにレストランの端の一角が騒がしい。
今までそこに座っていた外国人や日本人はすべて追いやられ
従業員が複数の木のテーブルをくっつけて
大テーブルが作っているところだった。


コンクリートに囲まれた屋上への出口、
つまりは屋上レストランの入り口の辺りがざわざわし始めたかと思うと
そこから10人ほどの身なりの整ったインド人たちが出てきた。
ワイシャツを着た男、民族服を着た男、
皆、腹が出ていて、
口ひげを生やし、
額にはオレンジ色で3本の横線が引かれている。
ヒンドゥー教徒のなかでも縦に線が入るのがヴィシュヌ派、
横に入るのがシヴァ派のはずだ。
ルックスや態度、周囲の従業員の配慮から
彼らはハイ・カーストのように思われる。



ん?あれ、シルク売りのパプーじゃねぇか?


大テーブルの左端に座っている男に見覚えがある。
8年前、冷やかしに行った店のインド人に良く似ている。
いや、似ているというかあれは8年前散々コケにしたパプーだ。
間違いない。
写真にも撮ったし
あの面白い顔は忘れようが無い。



パプー率いるその集団・・・
いや、率いると言うか、座り位置からしてパプーの腰巾着ぶりが伺えたが
その集団の凄さを実感したのは直後だった。


彼らのテーブルに湯気の立った大量の料理が運ばれてくる。
席に着いてからわずか10分だ。


・・・おい、待て。なんでそんなに早いんだ?!
このレストランのやつらその気になりゃあ出来るんじゃねぇか?!!


なにせ我々は注文してから
この薄い味付けのチキンビリヤーニーが来るまで
1時間半も待ったのだ!
そして我々の席に追いやられた隣の日本人に至っては
未だに注文した料理が来ていない。




ハイ・カースト恐るべし。



てか、
わしパプーとこの宿は許さんけんねー。










つづく