もう一度行きたい町  その2 ソロ ― インドネシア ―

ほとんど宿で寝込んでいた記憶しかない。
この町でO野峰、U君、俺の順に
次々と倒れていった。
前日、バンドゥンの駅前の安食堂で飲んだアイスコーラのせいだろう。
【アイスコーラ :インドネシア、ジャワ島の灼熱の日差しに晒され
 握ると火傷するほどにまで熱せられた瓶に入ったコーラを
 砕いた氷を詰め込んだジョッキに注いで作る飲料。
 氷は一瞬で溶け、コーラは冷蔵庫で冷やしたくらいの冷たさになる。
 生水が危険とされる東南アジアで、当然、生水を凍らせた氷も危険。
 普通のコーラより3割ほど値が張る。】


そもそもジョグジャカルタという有名都市ではなく
その隣町のソロを選んだのは
ガイドブックに書いてあった「古都」という響きと
同じくガイドブックに書いてあった
ちょうどこの時期開催されているはずの
「ティンガラン・ダレム・ジュメネンガン」という祭りが目当てだった。


「ティンガラン・ダレム・ジュメネンガン」については
地元民に聞いても誰も知らず
帰国してからGOOGLEで調べても出てこない謎の祭りだ。
もちろんそれらしいものにも一切出くわさなかった。
さらに体調も悪かったため、出歩いたのは町のほんの一部分。
「古都」らしい町並みにもほぼ出会えなかった。


それでも宿泊したウェスターナーズ・ゲストハウスは
なんだかんだ居心地のよいゲストハウスだった。
エアコンはもちろん無く
シャワーも共同で当たり前のように水シャワー。
ただ、部屋は広く
従業員は距離感をわきまえながらもフレンドリーで誠実。
ジャグのジャワティーは飲み放題。
バックパッカーが愛した老舗宿というのも頷ける。


そして、スコールが通り過ぎたあとふらふらと歩いていると
突き当たりで王宮にぶつかった。
王宮と言っても、ちょっとした庭付き一戸建てほどの大きさと広さだ。
王宮の庭先ではガムランが演奏されている。
またしとしとと雨が降ってきた。
スコールの後の残り雨。
夕闇、小雨、ガムランの調べ。
あの感覚は良い。
庭先から漏れてくるガムランの調べを聴きながらの雨宿り。
バリのガムランがリズミカルなのに比べて
ジャワのガムランはメロディアスで透明感があった。
青銅楽器の、金属質ながらも柔らかい響きが
雨が屋根を叩く音に
良く合う。