第44章 それでも列車は走る


ハウラー橋を渡るとき
タクシーの窓からカルカッタの街並みが見えた。
河の向こうに浮かぶ街並み。
薄闇のなか
ぽつぽつと橙色の明かりが灯っている。


妙に感傷的な気分になる。
タクシーに乗っているからだろうか。
タクシーは駅に向かい、駅からは列車が出る。
それは次の町への旅立ちであり
いまの町との別れになる。
旅立ちの瞬間というのはいつも心躍るものだが
今は残された日数が、旅の終わりを意識させ
別れの部分をより際立たせているのかもしれない。



それから5分もしないうちに
タクシーはハウラー駅に到着した。


ウェイティングリストは繰り上がっていた。
無事、聖地ヴァラナシに向かうことが出来る。
昼間に駅前で出会ったあの
メガネにちょび髭のおっさんの言っていたことは現実となった。


夕飯として駅構内の食堂で
エッグビリヤーニーを食う。
洗練された味ではないが
駅の食堂は割りとハズレが無い。


出発まではざっと1時間近くあったので
デザートでも食っておくかとふと思う。


スウィーツ屋と思しき売店
ガラスケースに並ぶ大概丸っこいスウィーツの中から
名前の響きに惹かれてクリームチョップというやつを選ぶ。
これが凄まじかった。
勝手にシュークリームのようなカスタードクリームの味を予想していたが
まったくのハズレ。甘い。激甘。少しでも味を薄めようと口内の唾液が総動員されるほどの激甘。
油で揚げた小麦粉を
極限まで煮詰めに煮詰めた砂糖汁に放り込んで
浸透圧の限界までその汁を染み込ませたような味だ。
決してまずいわけではないのだが
インドでは普通のチャイより数倍も値が張る
ブラックティーが飲みたくなった。


出発の時間は20時35分。
15分前にはホームへ。
隣のホームでは
ローカル線だろうか、
アナウンスがこだまし
出発直前の列車が待機していた。


その列車のドアの端にかろうじてしがみついているインド人たち。
それはもう金曜夜の中央線ばりに
車内は混み合っている。
いや、あれを車内と言って良いのだろうか。
車内と車外の境界は極めて曖昧で
何人ものインド人たちがドアの部分から半身はみだしている。
ドアが閉まらない。
むしろ、ドアは閉まらない仕様なのか。
そのまま列車はゆっくりと走り出してしまった。
そんな状態ですら驚異的なのに
それでも動き出した列車に走って追いついて飛び乗る別のサラリーマンたち。


あれは次の駅までに2、3人落ちるだろ・・・。
恐るべしインドの通勤ラッシュ。


15分後に我々も列車に乗る。
予約した寝台車。
ベッドは硬いが寝れるだけ全然ましだ。
枕元には水分補給のためのゲータレード


目が覚めたとき
我々は聖地ヴァラナシにいるだろう。










つづく