最終章 ヒーロー


ニューデリーのメインバザールの一角、スターパラダイスホテルで
だらだらとテレビを見ていると
インドドラマが始まった。


タイトルは「HERO」。
主人公は、もちろんHERO。


主人公は普段はウェイターの青年。
前髪を9対1に分け
丸メガネをかけた、いかにも冴えない青年だ。
口ひげもない。
だが、彼は神様にもらった指輪をはめることで
HEROに変身する。
赤いポリエステル調の戦闘服に身を包み
右手には龍の顔をかたどった手袋。
ちなみにこの手袋の龍の口からは
赤い光線が出て
攻撃したり物を動かしたりいろいろ出来る。
顔は丸出しでメガネは外し
髪型もポマードでべたべたのオールバックに変わる。
もちろん小太りだ。


今回の敵はAC/DCと名乗る悪者。
青いタイツを着込み、水色のヘルメットをかぶっている。
悪者らしくいやらしい笑顔。
左手には電気だか電磁波だか青い光線が出る機械をつけ
右手にはちゃちなプラスチックのリモコンを持つ。
リモコンは人々を早送りしたり出来る。
もちろんAC/DCも小太りだ。



ふたりのファーストコンタクト。
AC/DCが左手の機械から青い光線を出し
無人の車を動かしてHEROを襲う。
ジャンプで避けるHERO。
さぁ反撃とHEROが駆け出した瞬間、
一目散に逃げ出すAC/DC。
追うHERO。
逃げるAC/DC。


AC/DCが逃げた先で魔女のような格好をした
厚化粧の女が待つ。
どうやら仲間らしい。
魔女の先導でマンホールの中に隠れるAC/DC。
敵の行方を見失うHERO。


しかしHEROはマンホールの傍で紙切れを発見!
AC/DCが落とした名刺だ!
これ以上の手がかりは無い。
なにせ名刺にはAC/DCの電話番号と住所が書かれているのだ。


変身を解いた、まぁつまりは赤い戦闘服を脱いで
前髪を9:1に戻して丸メガネをかけた青年が
名刺に書かれた住所へ向かう。


ここで視点はAC/DCに。
物陰に隠れたAC/DCは
のこのことアジトにやってきた変身前のHEROを奇襲。
左手から青い光線を発射。
丸メガネの青年は壁に叩きつけられ
身動きが取れなくなる。
両手両足を動かそうと必死にもがき
苦しそうに顔を歪ませるHERO、もとい丸メガネの青年。
素顔を晒して正義の味方をやってるからそんな目にあうんだぞ、HERO!


身動きの取れないHEROを痛めつけ
去っていくAC/DC。
ぼこぼこにされ気を失うHERO。



さらに悪事を加速させようとするAC/DCは
街なかでチンピラふたりを勧誘。
不思議な力を与え、仲間にする。
ふたりは見た目も変わり、特殊能力を持った怪人に。
ひとりは怪人ミキサー。
人をくるくる回転させ
目を回させることが出来る。
もうひとりは怪人シンバル。
両手に持ったシンバルで
人々をぺっちゃんこにする。


ミキサーとシンバル、ふたりの仲間を引き連れたAC/DCは
テレビ局を襲撃。
局の職員をくるくる回したり、潰してぺらっぺらにしたりして
テレビ局をジャック。
ニュースを通じて人々を洗脳する電波を全国に流す。
洗脳の仕方は、テレビ画面にいきなり現れて
指をくるくる回して渦巻きの映像を見せるという画期的なものだ。



そこからドラマは
HEROこと丸メガネの青年とそのガールフレンドとのラブロマンスや
その家族との家族ドラマを挟む。
そしてついに、いや唐突に、AC/DCの居所をテレビ局だと突き止めたHERO。
なお、あれだけメディアに露出してればアホでも居所は判る模様。


HEROがテレビ局に乗り込むと
ミキサー、シンバルのふたりの部下が襲ってくる。
パンチ1発、キック1発で軽くあしらうHERO。
しかしまたしてもAC/DCの左手の機械から発せられた青い光線がHEROを襲う。
またもや壁に叩きつけられ
身動きが取れなくなるHERO。
なんて学習能力の無い正義の味方。


そこへ魔女が悪の親玉を連れて登場。
親玉は壁に貼り付けられたHEROに近づく。
親玉の狙いはHEROの右手にはめられた龍の手袋。
必死に剥ぎ取ろうとするが剥ぎ取れない。


両手で頑張っても剥ぎ取れない。


左足で壁を蹴って踏ん張っても剥ぎ取れない。


魔女の私物の砂時計が時を刻む。


親玉、引き続き汗をかきながら頑張るが
・・・剥ぎ取れない。


そのうち魔女の砂時計の砂が
すべて下に落ちる。
魔女が親玉に声をかける。
時間切れということなのだろう。
魔女と親玉は悔しそうな表情をしながら消えてしまう。


そのときHEROは履いていた靴を脱ぎ
蹴り飛ばす。


靴はAC/DCの左手の機械に命中。
機械壊れる。
青い光線途切れる。
HERO身動きが取れるようになる。


さぁここからクライマックス!
HEROの反撃だ!
と思った瞬間・・・


警官ふたりが部屋に踏み込んできて
AC/DCを逮捕。


えっ?逮捕?!


HEROが悪をやっつけるわけでもなく
逮捕?!!


別に抵抗するわけでもなく
素直に連行されていくAC/DC。



そしてエンディング。



・・・なるほど。
やっぱり悪いことすると
警察に捕まるんやね。
国家権力万歳!!
ってかHEROいらなくね?!



それが旅の終わり。
それがインド最後の夜。





NAFのパウのインド旅行記【第4部】 ― 完 ―