第55章 デリーへ向かう列車


19時15分。
ミッドナイトシヴァガンガーエクスプレス。
列車は定刻どおりにヴァラナシの駅を出発した。


終着駅はニューデリー


ガタンガタンという列車の鼓動が
徐々に加速しだし
窓から風が入ってくる。


生ぬるい風。
季節は乾季から夏に向かっているのだろう。



今朝は早起きだった。
ガンガーから昇る朝日を見るためだ。
朝靄がかった対岸に
少しずつオレンジ色がにじみ
やがて潤んだような朱色の太陽が
徐々に鉛色の河を染めていく様は
なんとも言えない神々しさがあった。



危うく忘れかけていたヒロシの店にも行ってみた。
さして欲しいものも無かったが
シルクのスカーフを1点だけ購入。
8年前に出会った(らしい)ヒロシと名乗るインド人は
勝手に25ルピーまけてくれ
おまけにバンダナもくれて
チャイも振舞ってくれた。



例の悪ガキにも出くわした。
100円をくれと言う。
訊けば俺が渡したやつは失くしたのだと言う。
きっとポケットの中に入っているのだろう。
またヴァラナシに来たときにやる約束をした。




列車はデリーとの距離を縮めてゆく。
窓の外には
次々と通り過ぎる景色。
闇に溶けた町並み。


斜向かいの席には
ライフルを持った軍人が座っている。
時間が過ぎるにつれ
様々な人が通路を通り過ぎる。


チャイ売り。


弁当を売る駅職員。


喜捨を求める歌うたい。


足の無い掃除人。


あらためてここはまだインドなのだと思う。



頭のなかで「島人ぬ宝」のメロディーが響き出した。
良く考えればまったくインドに合わない歌だ。
弦の錆び付いたギターの音色にあわせ
U君、ナベタク、モヌーと4人で歌ったのは今日の午後のこと。


モヌーとの別れは意外とあっさりとしていた。
もう何度も繰り返している別れだ。


「また、4年後な。」


「今度来たときはオレは結婚してるかもしれないな。」
とモヌーは笑った。




列車は走り続ける。



もう何度も繰り返している
旅の終わり。



窓の外には相変わらず同じような景色が流れていた。










つづく