インド旅行記 ― 第二部 ―

  最終章 HELLO,GOODBYE

インド最終日。 我々は最後の晩餐として エアコンが効き 微妙なダンスミュージックが流れる こじゃれたレストランにふらっと入った。 客は我々2人だけ。 俺はバターチキンを注文。 そしてM上と二人で 真昼間から キングフィッシャー・ストロングを飲む。 …

  第29章 Shopping

列車は早朝デリーに到着した。 まだ陽が昇りきっていないにも関わらず駅前にたむろする客引きの姿と 肌を刺す北インドの冷たい朝の風が 4年前と同じ感覚を思い起こさせた。 旅が終わる。 ただ4年前と少し違っていたのは あの時の「ついに」旅が終わるとい…

    第28章 TRAIN FOR DELHI

旅の終わりが近づいてきている。 ヴァラナシを出発した列車は やわらかな闇の中 旅の終着点デリーへと向かっている。 寝台車の3段ベッドで ふと物思いにふける。 短い旅だった。 が、日々めまぐるしく起こった様々な出来事が 脳裏に浮かんでは消えていった…

  第27章 Sound in the Night

聖なる河ガンガーが 夕焼けのオレンジを経て 全てを飲み込みそうな漆黒の闇に包まれた頃 ヨギ・ロッジの隣、モヌーの家で タブラとシタールによるコンサートが始まった。 タブラを叩くのはモヌー。 シタールを弾くのは立派なちょび髭を蓄えたモヌーの友人だ…

  第26章 ORS

経口補水塩というのをご存知だろうか。 水に塩と砂糖を混ぜたもので血液より浸透圧が低く ブドウ糖やらナトリウムやらの効果で 身体に水分として吸収されやすい魔法の液体である。 下痢、嘔吐、発熱による脱水症状の治療に用いられるらしい。 簡単に言えばポ…

  第25章 JAPANESE FOOD

日も暮れ 河からの風が心地よいものへ変わっていった。 ここヴァラナシの裏路地の店々は 雑踏と どこからか聞こえてくる笛や太鼓の音の合間で 白熱灯の光にほのかに照らされ その日本の縁日を思い出させる妙な懐かしさと幽幻さに 俺はいつも少なからず高揚感…

  第24章 CASTE

しばらくはモヌーの家で 思い出話やこの4年間のお互いの暮らしについて語り合った。 1年程前には日本の青年バックパッカーが足繁くモヌーの家に通い モヌーにタブラを教わっていたらしい。 そのときモヌーが代わりに教わったのが日本の歌、BIGINの『…

  第23章 Beside Yogi Lodge

この季節のヴァラナシは 依然訪れたときよりも涼しい気がした。 気温は30度を超えているだろうが ガンガーからの風が心地よく 日本の初夏のやわらかさに似ていた。 屋上での昼食を終えた後 M上は再び町へ繰り出しが 俺は大事をとって部屋で休むことにした…

  第22章 PUJA GUEST HOUSE

絶食の効果は絶大だ。 一時的に右腕は動かなくなったが 腹の調子はある程度治っている。 体はまだ重いが インドではそれが俺の普通の状態である。 冷たくなった右腕に 左手でマッサージを施し なんとか熱と感覚が戻ってきたところで M上が部屋に戻ってきた…

  第21章 VARANASI IN THE NIGHT

車はヴァラナシのゴードウリヤー交差点に到着し 我々はそこで車を降りた。 料金を支払うにあたって メガネの男は例のごとくお釣りが無いとか言い出しやがったが もう争う気力も無いほど体調は悪化の一途を辿っていた。 早く・・・早く宿を探さなければ。 時…

  第20章 TO VARANASI  

空が次第に重くなっていく。 陽が落ちきる前にここから移動しなくては・・・。 確かここムガル・サラーイからヴァラナシへは リクシャーで行ける距離だとガヤーの駅員が言っていたはずだ。 しかし問題は・・・ 手持ちルピーがゼロ。 ドルも10ドル札が数枚…

  第19章 Crime and Punishment

「おい・・・。」 「おい・・・おい・・・起きろ・・・。」 蒸し暑い列車の中 M上の呼び声で目を覚ます。 どうやら間もなくムガル・サラーイに到着するらしい。 荷物置き場に横たわっていた俺は 自分自身を確かめるようにゆっくりと身体を起こした。 まだま…

  第18章 TRAIN for Mughal Sarai

列車が停車するやいなや 車内になだれ込むインド人。 この駅で降りる人々は 列車が完全に停車する前に 飛び降りきってしまっているものだから 停車した瞬間が 乗車の合図なのだ。 少しでも良い席を・・・ いや、もはや席は無い。 少しでも良い隙間を得るため…

  第17章 TICKET TO RIDE

ガヤーの駅の切符売り場は 都市部や観光地ほど混雑してはいなかった。 順番を待っているのはせいぜい20人といったところか。 手には先ほどM上と作成した 希望する列車の番号、クラス、行き先などを書いた紙を握り締め 列の最後尾に並ぶ。 この列車のチケ…

  第16章 MONEY CHANGE 2  

インドで日本人はボラレやすい。 白いペンキを塗った石のタージマハル模型を 大理石だと偽られ20ドル(約2100円)からふっかけられるし (最終的に10ルピー(約30円)ぐらいまで値下げしてくる) 地元民で賑わう食堂では 誰ひとりメニューなんて見…

  第15章 MONEY CHANGE  

ヨーグルトは身体に良いはずだ・・・。 特に胃腸に良いはずだ・・・。 ビフィズス菌が腸内で増えて 悪玉菌を倒すのだ・・・。 だから大丈夫なはずだ・・・。 長時間灼熱の太陽に晒されていようが ハエがたかっていようが 大丈夫なはずだ・・・。 そう自分に…

  第14章 IN GAYA 2 

翌朝、ラナとの約束の時間より前に 我々は眼を覚ます。 ラナとの約束・・・そう今日は 山奥のラナの親戚がいる村に 鶏の首を絞めに行く日である。 ・・・・・・ 「おい、お前、鶏、絞めたい?」 「いや、別に。・・・いや、むしろ絞めたくねぇ。」 「しかも…

  第13章 RANA 2  

ブッダガヤーのはずれのラナの家で 気まずい時間を過ごした帰り道 我々を乗せたバイクは ふと駄々広い広場で停車した。 広場には白濁色のコンクリートの建物や かやぶき屋根のレンガの建物が並び 背の高い広葉樹も何本かそびえ立っている。 おもむろに2、3…

  第12章 RANA  

静かな村だ。 デリーの喧騒とはかけ離れ 聞こえてくる音といえば 鳥の囀り 木々のざわめき 少し離れた場所からの子供たちの歓声。 観光地化が進んでいるとはいえ ブッダ・ガヤーは確かに田舎 村であった。 窓からそよぎ入る心地よい風に吹かれ 硬いベッドの…

  第11章 IN BUDHA GAYA

一人目は俺だった。 ラナのバイクの後ろに乗り おそらくブッダガヤーの中心地に向かっている。 「シーユー、アゲイン」という社交辞令を真に受け 乗り合いジープの終着点で 我々を待ち構えていたこの男、ラナ。 さすがに断りづらく 我々はひとりずつラナお奨…

 第10章 IN GAYA  

夜も明けきらない頃 列車はガヤーに到着した。 車内アナウンスなど無く 遅れた割りに巻き返したり あるいはさらに遅れたり 到着時間もはっきりしないのだから インドの列車での途中下車では ぐっすり眠れるはずもない。 寝ぼけ眼で 駅構内から出てみると 駅…

  第9章 Fuck you, I won't do what you tell me  

5人。 マリファナ。 「50ダラー!!」。 ・・・最悪だ。 インド人5人は相変わらず口々に 「50ダラー!!」 中でもタンクトップの隣に位置取る 我々を連れ回したリクシャーワーラーは さらに大暴走。 マリファナがキまってきたのか 目の焦点は定まって…

 第8章 The Battle Of New Delhi 2  

チョビ髭の旅行代理店での一件で慣れていたせいだろうか 話を聞くだけなら問題ないだろうということで 我々はその怪しい旅行代理店のガラス扉を押し開けた。 店内は暗く狭く いかにもいかがわしい雰囲気を醸し出している。 店の奥には木製のカウンターがあり…

  第7章 The Battle Of New Delhi  

ネルシャツ、ネルシャツ、タンクトップ、Tシャツ、ポロシャツ・・・ ぐるりと見回せば 計5人のインド人に囲まれている俺とM上。 特にタンクトップの男は 趣味『ケンカ』と言わんばかりにごつい。 マリファナのおかげで すっかり上機嫌な彼らは 口々に「5…

  第6章 IN DELHI 2 

おかしい・・・。 どのリクシャーに乗っても ここに連れて来られてしまう。 チョビ髭オヤジの旅行代理店から 歩いて大きな通りに出る。 リクシャーを拾う。 メインバザールへ行きたい旨を伝える。 リクシャーに乗る。 走り出す。 止まると・・・ 「オカエリ…

  第5章 IN DELHI 

客引きという仕事を立派にやり遂げて 颯爽と去っていくインド人2人を乗せた普通乗用車。 どこだ?此処は。 あきらかにメインバザールではない。 ひととおり辺りを見回し M上と目を合わせた後 正面に顔を向けると 怪しい旅行代理店と チョビ髭。 「コンニー…

  第4章 HELLO ! MY FRIEND

朝が来た・・・らしい。 到着ロビーに差し込む緩やかな朝の光と 徐々に増え始めたロビーを訪れる人々のざわめきで 我々は目を覚ました。 チャイナエアラインのブランケットを以ってしても 空港のベンチでぐっすり眠れるはずもなく 体の節々が痛い。 ブランケ…

  第3章 IN DELHI AGAIN  

今回選んだ航空会社は チャイナエアライン。 成田を夕方出発した飛行機は 陽が落ちきった頃 台北に到着した。 ここでデリー行きの飛行機に乗り換える。 乗り換え待ちはわずか2時間ほど。 機内サービスはマレーシア航空やシンガポール航空ほどではないが 前…

  第2章 The Fantastic Plastic Box

新宿駅を出発した成田エクスプレス。 鈍行で向かった前回とは異なり 成田に向かって飛ばしに飛ばす 全席指定のこの電車は まさに快適そのものである。 その快適さは M上の機嫌を直すのに充分であった。 さてひとまず出発の時間には何とか間に合いそうだが …

  第1章 FOUR YEARS LATER

ヴァラナシのモヌーが言っていた。 「またいつかインドに来てくれ。 その頃には俺はプロのミュージシャンになってるから。」 デリーのバナナ売りがカタコトの英語で言っていた。 「カム、インディア、アゲイン。」 そして帰国便の機内でM上は言っていた。 …