第29章 Shopping


列車は早朝デリーに到着した。


まだ陽が昇りきっていないにも関わらず駅前にたむろする客引きの姿と
肌を刺す北インドの冷たい朝の風が
4年前と同じ感覚を思い起こさせた。


旅が終わる。


ただ4年前と少し違っていたのは
あの時の「ついに」旅が終わるという感覚ではなく
「もう」旅が終わる、終わってしまうという感覚であったことだ。


デリーは俺にとって旅の終わりを告げる町でもあった。



我々は客引きを振り払いながら
メインバザールに向かい
前回泊まったスターパラダイスの系列宿
スターヴューデラックスにチェックイン。


仮眠をとって昼前に起きた我々は
屋上の食堂で遅めの朝食。


もはや俺の朝の定番
エッグパーラーターと
バナナカードをたいらげた後
おみやげを買いに町に繰り出すことにした。



新市街であるおしゃれなコンノートプレイスを経て
さらに南にぶらぶら歩いていくと
エンポリウムがあったので
ふらっと入ってみる。


エンポリウムは州経営のみやげ物屋で
インドでは珍しく商品に値札が貼ってある。
料金交渉制ではなく定価販売というわけだ。


値段は少々高いが
商品のクオリティも高く
ぼったくられたり偽物をつかまされたりする心配も無い。
店内は小奇麗な格好をした欧米人や
日本人の年配のツアー団体客で賑わっていた。


「なんだこの置物・・・
 ドル表示なんですけど・・・。」


「おいこの紅茶800ルピーって書いてあるぞ!
 今泊まってる宿より高いぜ!!はははっ。」


そんな風にM上とクーラーの効いた店内を
冷やかしていると
スーツを着た若い店員が
すっと俺の隣に近寄ってきた。


そして肩を叩いて俺に耳打ち。


「・・・ヘイッジャパニ・・・。
 ここの品物は高いぜ・・・。
 外で買ったほうがいい・・・。」


え?!


え〜〜〜!!?


驚異的な強さを持つ日本円を持つ我々日本人は
インド人にとって絶好のカモであるはずだった。


客引きや物売りにしつこく絡まれたことは何度もあっても
他の店を薦められることなんてなかった。
日本人はどこにいっても
商売人にモテモテだった。
旅行代理店やシルク屋ではVIP待遇であった。
・・・それが「ここは高い」?!「他の店に行ったほうがいい」?!!


当人としては親切心であったのかもしれないが
我々にとっては「金をもっていない」「客にならない」と見られ
門前払いを喰らったような形になったことは
ひどくショックであり屈辱であった。


肩を落として店をあとにする時に振り返ると
その店員は
満面の作り笑顔で
日本人老夫婦にブロンズの置物を薦めていた。



いや俺達だって金はあるのよ。
紅茶買えるぐらいの金は・・・。


俺らそんなにみすぼらしい格好してるかなぁ・・・。









つづく