第25章 JAPANESE FOOD


日も暮れ
河からの風が心地よいものへ変わっていった。


ここヴァラナシの裏路地の店々は
雑踏と
どこからか聞こえてくる笛や太鼓の音の合間で
白熱灯の光にほのかに照らされ
その日本の縁日を思い出させる妙な懐かしさと幽幻さに
俺はいつも少なからず高揚感を覚えていた。


そんな裏路地を抜け
我々は宿に戻り
屋上の食堂で飯を食うことにした。
今日がここプージャ・ゲストハウスでの最後の食事となる。
というのも
モヌーにプージャ・ゲストハウスに泊まっていることを伝えたところ
例のごとく
「はぁ?!馬鹿かお前ら!!金を浪費しすぎだ!!
 あんな高いところじゃなくてヨギロッジに泊まれ!!
 セーブ!!セーブマニー!!」
とモヌーの家のすぐ傍のヨギロッジを勧められたからだ。


さて一時よりは大分ましになったものの
未だ腹の調子は良くない。


メニューの中からなるべく胃腸に優しそうなものを探す。
さすがバックパッカーの集まる宿の食堂らしく
メニューにジャパニーズ・フードなるコーナーがある。
・・・『OYAKO DON』
『TAMAGO DON』
『OM RICE』
『OJIYA』


前々から気にはなっていたが
インド人にとっての和食は
親子丼だったりOMライスことオムライスだったりするようだ。
どこへいっても『日本食』をメニューに掲げている食堂の日本食メニューは
親子丼やオムライスだ。
親子丼はまだいいが
オムライスが日本食として
高々と掲げられていることについてはやや解せない。



うーーん、ここは『OJIYA』だろう・・・。
胃腸に一番やさしいはずだ。
さすがにオジヤなら
インドのスパイスで疲れた俺の胃腸でも受け入れられるに違いない。


俺は『OJIYA』を注文することにした。


食堂の隅では
タブラとシタールによるちょっとしたコンサートが開催されている。
しきりに時計を気にしながら演奏を続けるタブラ奏者とシタール奏者。
仕事が終わる時間を今か今かと待ちわびているのだろう。



そんな気の抜けた演奏を
ぼんやりと眺めていると
30分ほどして
『OJIYA』が運ばれてきた。


・・・色がおかしい。


なんだこれ?!
オジヤにあるまじきものが混入されている。


はぁ?!トマト?!!


はぁ?!青唐辛子?!!


しかもこの色、絶対ターメリックの色だろ?!!


恐る恐るスプーンでひとすくい
口に運んでみる。



「辛ッ!!」



これのどこがオジヤじゃい!!!









つづく