第15章 MONEY CHANGE  


ヨーグルトは身体に良いはずだ・・・。
特に胃腸に良いはずだ・・・。
ビフィズス菌が腸内で増えて
悪玉菌を倒すのだ・・・。
だから大丈夫なはずだ・・・。
長時間灼熱の太陽に晒されていようが
ハエがたかっていようが
大丈夫なはずだ・・・。


そう自分に言い聞かせて
運ばれてきたヨーグルトに手をつける。
・・・酸っぱい。
この酸っぱさはヨーグルト本来のものなのかそれとも・・・
いや、考えるのはよそう。
不安は体調を悪化させる。



太陽の熱を十二分に吸収した
生温かいヨーグルトと
遅れて運ばれてきたエッグパーラーターを食べ終えたころ
店の中でたむろしていた
従業員とも客とも知れぬ若いインド人が声を掛けてきた。


「ヘイ、ジャパニ?!マネーチェンジ?!!」


闇両替か。


ちょうどいい。


我々の手持ちルピーは既に底を突きかけていた。
今の手持ちではヴァラナシまでの切符を買うこともできない。
ガイドブックにもガヤー周辺の地図は載っておらず
この食堂に入る前、駅前を少しうろついたが
銀行や両替所らしきものも見当たらなかった。


トラブルが多いとされる闇両替と言えども
路上などではなく
地元民でごった返す食堂の中で声を掛けてくるぐらいだから
比較的安全だろう。


「どうする?」


M上に声を掛ける。


「うーーーん、ま、いいんじゃね?銀行探すのも面倒だし。」


「そうだな。ま、少々レートが悪くてもそんなにたくさん両替するわけじゃないし。」


我々がそんな相談をしていると
イケると踏んだのか
男は追い討ちをかけてきた。


「サタデー!!バンク イズ クローズド!!!」


いや、銀行は確か土曜日も午前中は営業しているはずだったが
我々はこの男に両替をもち掛けてみる事にした。


「レートは?」


「1ダラー、35ルピー!!」


レート悪うっ!!


確か正規レートは1ドル45〜50弱のはず。


土曜日は銀行が閉まってるから
このレートなんだ!とうそぶくインド人。
そこからレート交渉が始まり
1ドル=41ルピーで成立。


少し安いがこれ以上は面倒だった。
男に2人分で20ドル札1枚を手渡す。


「20ドルだからな!いいか?!820ルピーだぞ!!」


「オーケーオーケー。ノープロブレム!!820ルピー!!
 ウェイト!!ワン ミニッツ!!」


20ドル札を握り締め
慌てて店を飛び出していくインド人。


その慌てっぷりに
多少不安を煽られたりもしたが
5分後
息を切らせながら男は無事戻ってきた。


「ハァ・・・ハァ・・・ ヘイ ジャパニ、ルピーだ。」


汗だくの男から
ルピー札の束を受け取る。


もちろんその場で即チェックだ。
何ルピーかちょろまかされている可能性もある。


10ルピー・・・
20ルピー・・・
30ルピー・・・
ん?
40ルピー・・・?
あれ?
50ルピー・・・?!
10ルピー札ばかりだ。
820ルピーにしては束が薄い気が・・・。
60ルピー・・・?!!
70ルピー・・・?!!!
とんでもなく嫌な予感がする・・・。
80・・・
81・・・
・・・82。


はち・・・じゅう・・・に?!
82ルピー?!!!


はぁ?!!
完全に想定外だ!!
82ルピー?!!
10分の1だぞ?!!
やりすぎだろ?!!馬鹿かこいつ?!!


まさかここまであからさまにヤラレるとは思わなかった。


「ヘイ、ジャパニ!82ルピー!!オーケー?!」


オッケーなわけないだろがぁぁぁぁ!!!!





つづく