第2章 The Fantastic Plastic Box

新宿駅を出発した成田エクスプレス


鈍行で向かった前回とは異なり
成田に向かって飛ばしに飛ばす
全席指定のこの電車は
まさに快適そのものである。


その快適さは
M上の機嫌を直すのに充分であった。


さてひとまず出発の時間には何とか間に合いそうだが
急いで出てきたため
今度はリュックの中身が心配になってきた。


前回は成田空港でリュックを買い足すという大誤算。
つまりリュック2つで旅立ったのに比べ
今回は1つ。
しかもやけに軽い気がする。


電車の中で
リュックの中を探りまわし
旅の必需品をチェック。


圧縮袋、粉ポカリ、洗濯紐・・・
リンスインシャンプー、風邪薬、ゼリー飲料・・・
液状蚊取り、ボールペン、ライター・・・


そうだ、今回はボールペンとライターを
大量に購入したんだった。
この2つはインドで老若男女問わず
驚くほど人気が高い。
インドの税関で
「ボールペン持ってないか?」
と訊かれるほど
まだまだ世間に普及していないのだ。
お世話になった人にプレゼントできるし
時には物々交換もできる。


このおしゃれな形のライターなんかは
モヌーにプレゼントしてやろう。




程なく成田エクスプレスは空港に到着した。


早い。
実に早い。
・・・もしかしてこの電車じゃないと間に合わなかったんじゃねぇか?


出発時間にはなんとか間に合ったとはいえ
チェックインは既に開始済み。


我々は急いでチェックインを済まし
次にドルへの両替。
後は「絶対に無事に帰ってくる」という
決意表明として
最低金額での保険バラがけ。


死亡しても300万円しか出ないって・・・
絶対に死ねん。



いよいよ旅立ちの時がやってきた。
残るは出国審査のみ。


手荷物として持ち込むリュックを預けセキュリティゲートをくぐる。


このゲートをくぐるときは
いつも妙に緊張してしまう。


日常生活で
こんな厳格なチェックを受けることも少なく
漠然とした不安に駆られてしまうのだ。


が、そんな不安もよそに
ブザーがなることも無く
無事セキュリティゲートを通過。
あとは飛行機に乗るだけだ。


いざ!神々の住まう大地、イン・・・
「すいませーん!」
ド・・・
「ちょっとお荷物のチェックよろしいですかー?」


へっ?


振り返ると係員のおねぇさんが
俺のリュックを差し出して立っている。


「ライターいくつお持ちですかー?」


「え、・・・たくさん。」


「それではこちらの箱にお願いしまーす!!」


思いっきり作り笑顔で
透明のプラスチックの箱を突き出す係員のお姉さん。


「え?ライターってダメなんですか?」


「はい、今年からダメになりましたーーー。
 この中にどうぞーーー。」


その箱の中には
哀れ異国の地を踏むことなく
その生涯を終えた
たくさんのライターたちが眠っていた。


「はい、どうぞーーー。」


「え、自分で入れるんですか?」


「はい!ご自分でーーー。」


思いっきり笑顔だ。


「・・・ははは、荷物が軽くなるし良いですね〜・・・」


「そうですねー。はいどうぞーーーー。」


・・・あーーーーそう。
ダメなの。
ライター・・・。


「はい、どうぞーーー。」


・・・さよなら。俺のライターたち。
出会ってからわずか5時間。
短い間だったけど
ありがとう。


安らかに・・・


「ご協力ありがとうございまーーーーす。」


航空法改正により
ライター49個没収。




つづく