第14章 IN GAYA 2 

翌朝、ラナとの約束の時間より前に
我々は眼を覚ます。
ラナとの約束・・・そう今日は
山奥のラナの親戚がいる村に
鶏の首を絞めに行く日である。


・・・・・・


「おい、お前、鶏、絞めたい?」


「いや、別に。・・・いや、むしろ絞めたくねぇ。」


「しかも山奥だぞ。」


「村なんかあんのか?本当に。」


「・・・首絞められるのは
 はたして鶏だけなのか・・・。」


「危険な香りがするな・・・。」


「残り日数と体調考えるとそろそろ移動したほうが・・・。」


「断るか・・・。」


「今日ブッダガヤーを発とう。」


ちょうどそのとき部屋のドアがけたたましく叩かれる。


「おい!お前ら!!起きろ!!
 朝だ!朝!鶏だ!鶏の首絞めに行くぞーー!!」


もちろんラナだ。
やけに興奮している。


我々はラナを部屋に招き入れ
本日の山奥での鶏の首絞めツアーの中止を提案。
最初こそ怪訝な顔つきで渋っていたラナだが
M上の巧みな説得術により
本日の予定のキャンセル
そして、今日この村を発つことが決定。


少し寂しいような気もしたが
やはり10日間という過密日程。
そろそろ次に向かうべき頃合いであった。



身支度をして
ゲストハウスを出る。
外では来た時と同じく
インドの田舎村の朝の光景が繰り返されていた。


乗り合いジープ乗り場まで
ラナに送ってもらったのだが
どうしてもラナがお土産を買っていけというので
おそらくぼったくり価格で
カルダモン(スパイス)と白檀の数珠を購入。


帰りも乗り合いジープに揺られ
ガヤーの町へ。
太陽が昇りきっていたぶん気温も高く
帰りの乗り合いジープは行きにも増して地獄であった。



さて、そろそろ太陽も一日のうちで最も高く昇ろうかという時間だが
まだ朝飯すら食っていない。


ガヤーの駅前で食堂を探していると
ドアや窓など無い石造りの食堂が目に留まった。
インドでよく見かける何の変哲も無い安食堂だ。
店先のガラスケースの中には
バルフィやラッドゥといったインドのお菓子が並び
ケースの上にはボウルに入ったヨーグルトが
灼熱の太陽の光とたくさんのハエ達に襲われていた。


他に食堂も見当たらなかったので
その安食堂に入り
空いている席に座る。


M上は得意のフライドライス(焼き飯)を注文し
俺はエッグ・パーラーターとバナナカード
つまりインド式バター(ギー)練りこみ焼きパンの卵入りと
バナナ&インド式ヨーグルト(ダヒー)
を注文。
前回の旅で腹を壊しまくった反省から
俺はヨーグルトなどお腹の調子を整えるらしい食材
しかも、なるべく油と香辛料を使っていない料理を
積極的に注文するようにしていた。


程なく厨房からバナナの輪切りを乗せた皿を持った店員が出てきた。
あれにヨーグルトをかけるはずだ。
が、どこへ・・・?!


おもむろに入り口の方に向かう従業員。


え?!まさか・・・。


嫌な予感は的中。
店員は店先に放置されていたボウルを手に取り
ハエを追っ払った後
中のヨーグルトをバナナにかける。


待てーーーーい!!!
そのヨーグルトはどう見てもダメだろ!!
この気温の中、日当たりの良い場所にほったらかしだぞ?!!
しかもハエたかってんだぞ?!!


が、その皿が俺の席に到着。


「ヘイッ、バナナカード!!」


いや、ちょっと待って・・・。


今、俺の目の前に置かれている
さっきまで太陽の熱とハエの脅威に晒されていたヨーグルト。
信じられねぇ・・・。
あれ、オブジェじゃなかったのか・・・。
つうか、客に出すか・・・あれを。
そもそも食って大丈夫なのかこれ・・・。
ヨーグルトって生ものだろ・・・?
現状に混乱しつつ
目の前のヨーグルトをまじまじと見つめていると
その様子に気づいた店員が一言。


「ノープロブレム!!エッグ・パーラーターは後から来るから心配するな!!」


いや、そうじゃなくて・・・。


うーーーん、このヨーグルトはさすがに・・・。



・・・俺の旅は
ここまでかもしれん・・・。





つづく