第6章 IN DELHI 2 

おかしい・・・。
どのリクシャーに乗っても
ここに連れて来られてしまう。


チョビ髭オヤジの旅行代理店から
歩いて大きな通りに出る。


リクシャーを拾う。


メインバザールへ行きたい旨を伝える。


リクシャーに乗る。


走り出す。


止まると・・・


「オカエリナサーイ。」


・・・チョビ髭の店だ。


この繰り返し。


まさに無限ループ。
路地から路地へと巡る
繰り返す回転の中で
遠心力に逆らうように
最後には円の中心、チョビ髭の旅行代理店に到着してしまう。


どこでリクシャーを拾おうが、だ。


なんだこの引力の強さは?
このチョビ髭ここら近辺の元締めか?


もはやリクシャーワーラーに行き先を告げることは
何の意味も持たない。


チョビ髭と3度目の再会を果たした後
我々はリクシャーでコンノートプレイスに行くのを諦めた。


大きな通りに出て通りの名前を確認し
手元の地図を確認。


多分こっちじゃね?で歩き始める。


運良く目印を見つけられれば
地図と照らし合わせ
自分の位置とこれからの方向を修正。


そんないい加減な歩き方で
30分もニューデリーを徘徊し続ければ
このやり方ではメインバザールにも
コンノートプレイスにも到底たどり着けないことが解ってくる。


ちょうど別の手段を考え始めたそのとき
前方からサラリーマン風のインド人が歩いてくるのが見えた。


スーツ姿というわけではないが
綺麗めなシャツにスラックス
口髭も心なしか整っているように見える。


「エクスキューズミー?」
すれ違いざまに
我々は声を掛けてみた。


眉をしかめこちらを睨むサラリーマン。


「コンノートプレイスはどっちですか?」


男はしかめっ面のまま
一呼吸おいてから短く答えた。
「カモンッ、ノープロブレム!」


そして振り返り
今来た道を戻り始める。


早足で歩くサラリーマンに
我々は黙ってついて行く。


確かどこかで同じようなことがあった。
そうだ、4年前のインドールだ。
右も左も判らぬインドールの路上で出会った紳士的な男。
寡黙な、いや無愛想と言っても良いだろう
しかし当然のことのように我々を駅まで案内してくれたその男の
威厳に満ちた背中を思い出した。



このサラリーマンも無事我々をコンノートプレイスまで案内してくれた。


男はしかめ面のまま
「コンノートプレイス!」
と一言だけ発しまた今来た道を戻っていく。


我々が慌てて
「サンキュー!」
とお礼を言うと
男は振り返りもせず
軽く右手を挙げた。


自分が今来た道を10分も20分も引き返して
見知らぬ外国人を送り届け
お礼の言葉すら欲さず立ち去る男。
道を案内してもらっただけで
ガイド料を請求されることもあるインドにおいて
その毅然とした態度は
実に清々しかった。



コンノートプレイスは相も変わらず
近代的で都会的な様相を呈していた。
その秩序だったコンクリート群は
同時にやはり相も変わらず
不自然さと息苦しさを感じさせた。


何を思ったのか我々は
このコンノートプレイスでまたもや
リクシャーを捕まえてしまう。


行き先はメインバザール。


2度目のインドということで
緊張感を失くし、楽観し、軽率になり
深く考えることをやめた俺とM上。



ここから徐々に旅の歯車が狂い始めていく。




つづく