第27章 Sound in the Night


聖なる河ガンガーが
夕焼けのオレンジを経て
全てを飲み込みそうな漆黒の闇に包まれた頃
ヨギ・ロッジの隣、モヌーの家で
タブラとシタールによるコンサートが始まった。


タブラを叩くのはモヌー。
シタールを弾くのは立派なちょび髭を蓄えたモヌーの友人だ。


曲はモヌーのゆったりとしたタブラのリズムから始まった。
ドゥン・・・タカラッ・・・ドゥン・・・タカラッ・・・・。
そのリズムを友人のシタール
徐々に囲んでいく。


外から染み込む町の灯りと
部屋の裸電球が
二人を神々しく照らす。
部屋の中は
モヌーとその友人とだけが
存在しているかのような雰囲気であった。


徐々にモヌーのタブラが加速していく。
タカラタカラタカラドゥン、タカラドゥン・・・。
それに逢わせるように
シタールの響きもより広がっていく。


二人の奏でる音が
石造りの部屋に
絶妙な鮮やかさで響く。


モヌーのタブラがさらに加速を始めると
インドでは日常的な停電が起きた。
部屋の明かりが落ちる。


闇の中、躍動するモヌーの影。
躍動するリズム。
シタールの音がその闇を
ほのかに照らすように響く。


音が
闇を
時間を支配していく。


停電が終わり
部屋に再び明かりが灯った頃
演奏も終わった。



圧巻であった。
技術的なことを言えば
まだまだの部分もあるだろう。
ただそれは
その演奏は
確かにプロを目指している
本気で音楽をやっている者の
音であった。



我々はモヌーとその友人と
素晴らしいチョウミンをご馳走してくれたモヌーの母にお礼を言い
宿に戻ることにした。


出口ではモヌーの親父が
我々のほかにも演奏を聴いていた
2組の欧米人からせっせとコンサート代をせしめている。


モヌーの親父にも挨拶をする。
親父は前回インドに来たときは出稼ぎに出ていて
家に居なかったので今回が初対面だ。
モヌー達が我々のことを話してくれていたらしく
笑顔で2、3言葉を交わす。


そして笑顔で手を差し出すモヌーの親父。
あ、やっぱり俺たちからも金取るのね。


モヌーの親父は
実にちゃっかりしていた。



親父に100ルピーを支払い
モヌーの家をあとにする。



帰りはガート近辺を散歩した。


夜のガンガーも朝や昼に劣らず
壮麗だ。
今夜もプージャと呼ばれる神への礼拝の儀式があった後のようで
ガートはまだまだたくさんの人々で賑わっていた。


「ん?あそこにいるのって・・・。」


「・・・あ、モヌーの親父じゃん。」


ガンガー沿いで最も繁華な
ダシャーシュワメード・ガードで
モヌーの親父は欧米人のカップルとなにやら話し込んでいるようだ。
無数に並んだ露店から漏れる裸電球の薄暗さが
モヌーの親父の姿をより胡散臭く映していた。


「あー、ああやって客引きしてんのね。」


「モヌーのマネージャーみたいなもんかね。」



モヌーの親父は
実にちゃっかりしていた。









つづく