第4章 HELLO ! MY FRIEND

朝が来た・・・らしい。
到着ロビーに差し込む緩やかな朝の光と
徐々に増え始めたロビーを訪れる人々のざわめきで
我々は目を覚ました。


チャイナエアラインのブランケットを以ってしても
空港のベンチでぐっすり眠れるはずもなく
体の節々が痛い。


ブランケットを圧縮袋に入れて小さく折り畳み
枕代わりにしていたスニーカーを履き
到着ロビーの外に出る。


朝靄がかった
およそ4年ぶりに体感するデリーの朝も
やはり肌寒かった。


国際線が到着するような時間ではないらしく
客引き、タクシードライバーの数もまだまばらだ。
マイリクシャーの中で
体を小さく折りたたんで
寒そうに眠っているリクシャーワーラー達も目に付く。


さて、
どうしよう・・・。


前回の旅はたっぷり1ヶ月あったが
今回はわずか10日。
計画的に回らないと
最悪最終日にここに戻って来れないということも有り得る。


「ひとまずメインバザールの安宿に泊まるかー?」


我々はとりあえずこのデリーに1泊し
旅の計画を練ることにした。


ちょうど今日一日の過ごし方がぼんやり見え始めたそのとき
ひとりの男が声を掛けてきた。


「ハロー、マイフレンド!!」


・・・胡散臭い。
実に胡散臭い。


「おまえら、ドコに行きたいんだ?!」


リクシャーワーラー・・・
いや市街地まで距離があることを考えると
タクシードライバーか?
どちらにしてもドライバー系だろう。


「あ?メインバザールだけど。」


寝起きはこちらも機嫌が悪い。


「オーケー!!カモンッ!!」


ここでひょこひょこ付いていく我々ではない。
なにせトラブルを避けるため朝まで待ったのだ。


「ハウマッチ?!!」


スタスタと先を急ぐその男に料金交渉を持ちかけると
男は口元にだけ笑みを浮かべ振り返りながら答えた。


「オンリー50ルピー!!」


・・・!!
安い・・・!
しかも2人で50ルピー。
シャトルバスでも確かひとり50ルピー前後。
プリペイドタクシーなら200ルピーはするはずだ。


トラブルの匂い満載ではあったが
まずはその安さ
次に日中であること
そして勝手知ったるデリーであるという自惚れが
我々にその男の車に乗ることを決断させた。



男に連れて行かれた駐車場に停められていたのは
普通の乗用車。


うーーん・・・タクシーですらないのか。


不安は増したが
眠気とインド2度目の慣れ慣れ感が
我々の判断を鈍らせる。


我々が後部席に乗り込むと同時に
男はエンジンを掛け
2、3言葉を交わしただけで
すぐに車はインディラ・ガンジー空港を出発した。



メインバザールへ向かっているであろう車。


車内では
「どこから来た?」
「インドは何回目だ?」
といったお決まりの英会話が繰り広げられている。


ある程度予測はしていたのだが
走り出して5分もすると
左前方の路肩で
右手を大きく振るインド人青年の姿が目に入ってきた。


もちろん我々を乗せた車は
そのインド人青年の目の前に横付けされる。


当然の如く助手席に乗り込むインド人青年。
振り返る運転席の男。


「ディスイズマイフレンド!!
 ノープロブレム!!」


聞き慣れた文句ではあったが
客を送る途中に
ついでに友達も送っていくという
インド特有のフレンドシップには未だに違和感があった。



さらに5分ほど走り続け
またもや振り返る運転席の男。


「ウィー アー フレンド!!」


うん、違うね。


運転席の男は
今まさに運転中であるにも関わらず
自分と我々を交互に指差し
満面の笑みでそう言った。


なおも右手でハンドルを握りながら
しゃべり続ける運転席の男。


「アンド ウィー アー フレンド トゥー!!」


今度は自分と助手席の男を
交互に指差す。


そして最後に我々と助手席の男を交互に指差し


「ソー ユー アー フレンド!!」


うん、全然違うね。



そんなやりとりを続けながら
30分も走った頃
車は細い路地に入って行く。


全然メインバザールに向かっている気がしない。


嫌な予感は的中。
車はおもむろに怪しい旅行代理店の前で停車した。
そしてクラクションをけたたましく2回鳴らす。


店の中から
Yシャツを着た恰幅の良い
チョビ髭のオヤジが出てくる。


「コンニーチワー!!
 ニホンノカタデスカーー!?」


流暢な日本語で車外から声をかける
この上なく胡散臭いチョビ髭のオヤジ。


うれしそうに後部席を振り返る運転席の男。


「オーケー マイフレンド!!
 ここでツアーを申し込むといい!!
 ノープロブレム!!」


・・・やっぱり50ルピーでまともに到着するはずないんだよなぁ〜。




つづく