第7章 The Battle Of New Delhi  

ネルシャツ、ネルシャツ、タンクトップ、Tシャツ、ポロシャツ・・・
ぐるりと見回せば
計5人のインド人に囲まれている俺とM上。
特にタンクトップの男は
趣味『ケンカ』と言わんばかりにごつい。
マリファナのおかげで
すっかり上機嫌な彼らは
口々に「50ダラー!!」と法外な外貨を要求している。



全てが裏目だ。


2度目のインドとナメてかかった我々は
4つの間違いを犯した。



遡ること3時間前
最初の間違いは
やっとこさ歩いて辿り着いたコンノートプレイスにて
不用意にリクシャーを捕まえ
「メインバザール」と行き先を告げたことであった。


今回、何度「メインバザール」という行き先を告げただろうか。
そのうち一度たりとも我々が「メインバザール」に辿り着けたことはなかった。


前回の経験があるのだ。
メインバザールへは歩いて行けたはずだった。
それがなぜか深い考えも無くリクシャーを捕まえてしまう。


もちろんリクシャーはメインバザールへ向かわず
「メトロが出来たからメインバザールは潰れた!」
と連呼され、旅行代理店、みやげ物屋、中級ホテルを循環。


その度に
「ここじゃない!メインバザールだ!!」
と再出発させるが
一向にメインバザールに到着する気配は無い。


仕舞いには駅の裏にリクシャーを止め
「ここがメインバザールだったところだ!!」
と逆切れしだす始末。


目の前に広がるのは
たくさんのビニールテントと
もうもうと立ち上る煙。
テレビで見た難民キャンプのようだ。


「うそつけ!!」
ひとつの通りがいきなりこんな風に潰れるかい!!
メインバザールが潰れたなんて話は聞いたことがないし
だいたいここがニューデリー駅なら場所が違いすぎる。


いよいよ頭にきた我々は
リクシャーを乗り捨て
駅構内へと向かっていった。


「もう面倒くせぇ!!デリーなんかもういいから今日のうちに別の町に発とうぜ?!」


「そうだな!無理にメインバザールに泊まる理由も無いし。」


我々は今夜も宿には泊まらず
夜便の列車で次の町へ向かうことにした。


次の町・・・
さて、どこへ行くか。


西インドも捨てがたいし
一気に南に下るという手も。
いや、一気に行くならいっそのこと東の果てカルカッタまで・・・。


・・・・・


とりあえずガヤーまで行くか。


この短い今回のインド旅行。
我々は最後のヴァラナシ
そして余裕があればカルカッタへ向かうことも視野に入れ
ヴァラナシから東へ200キロ
東インドに位置するガヤーを次の目的地に決めた。


ガヤーの南10キロほどの所には
ブッダが悟りを開いたとされる菩提樹がそびえる
ブッダガヤーという村がある。


ヒンドゥー教の聖地を訪れる前に
仏教発祥のきっかけとなった地に赴くというのもオツなものだ。


ガヤーに向かうにあたり
当然列車のチケットを取らなくてはならない。


が、しかし
鉄道の予約オフィスがどうにも見つからない。


我々が駅構内できょろきょろしていると
グレーのポロシャツを着た
背の高いインド人が近づいてきた。


「ヘイッ!!なんかあったのか?!」


「チケットの予約オフィスを探してるんだけど・・・。」


「オーケー!!カモンッ!!ノープロブレム!!」


俺に付いて来いとばかりに
颯爽と歩き出すポロシャツの男。


ここでも我々は不用意にふらふらと付いて行ってしまう。


彼らにとっての「ノープロブレム」が
得てして我々にとって「ビッグプロブレム」になり得ることは
解っていたはずだった。


男と我々は駅を離れ
徐々に先ほどのビニールテント街に向かっていく。


程なく目的地に着いたらしく
男はビニールテント街の入り口付近にあった建物を指差し
にやりと笑った。
「ヒアー!!ノープロブレム!!」


1階建ての四角い石造りの建物。
扉はガラスで出来ているが黒っぽい色が入っていて
中の様子をうかがうことは出来ない。
そして、店の前に立てられた派手な看板と
扉に張られたポップな字体の店の名前。
店・・・そう、店。
この雰囲気、この佇まいは何度も見てきた。


ここ旅行代理店じゃぁーーーーん・・・。


2つ目の間違い。




つづく