インド旅行記 ― 第五部 ―

 第25章 サラダと雨の夜

インドで商売人のおっさんと久々のバトル。 いや、ショーか。 相手は2人。 おっさんとそのアシスタントの若い店員。 四方を棚に囲まれたシルク工場兼直売所。 おっさんが棚から布を引っ張り出す。 布はシーツを干すときのように大きく開かれる。 目の前を布…

 第24章 エンポリウム?インダストリアル?シルク?ノータカイ、ミルダケー

「工場があるんだ。 シルク工場が。 ジャイプルのシルクは良いぞぉ! ヴァラナシよりグッドだ! 工場を見学できてしかも!チープなプライスで買えるんだ! おまえのガールフレンドに、マザーに、シスターに、ギフトだ!」 アンベール城の頂上から 来た道を下…

   第23章 アンベール城へ

ハキムがアクセルを踏みこむ。 車が走り出す。 郊外の住宅街をゆっくりと走ると 5分もしないうちに 前方に大きな門が現れる。 門の向こうがジャイプル旧市街だ。 ジョードプルもそうだったが 街の名前の「プル」は 「城壁に囲まれた町」を意味するらしい。 …

 第22章 屋上ランチ

テーブルに料理が運ばれてきた。 日本では信じられないような鍵事件が起きた直後だが とりあえず空腹は満たしておきたい。 俺の前にはミックスライタ、アールー・トマト、ジーラ・ライスが運ばれる。 ライタは安定のうまさ。 それぞれ細かく刻まれた、タマネ…

   第21章 鍵の数と同じはず

屋上のレストランからは 360度ジョードプルの街が見渡せた。 久しぶりの快晴で、乾いた風も気持ち良い。 さっそく席に着こうとすると 満面の笑顔のインドの兄ちゃんに声をかけられる。 後ろになでつけた髪にチョビ髭、パリッとしたシャツを着ている。 ど…

 第20章 ジャイプルの宿

自称RTDCのおっさんに連れて行かれたのは 駅に隣接したツーリストオフィスだった。 いつぞやのデリーの時のように 悪徳旅行代理店に連れて行かれなかっただけ まだ信用できる。 取り急ぎオフィス内のソファに座るよう促される。 「ムーンライトパレスが…

 第19章 Mr.RTDC

歌うたいの声で目を覚ました。 いつの間にかまたうとうとしていたらしい。 列車内の通路では、歌うたいが歌を唄い、小銭を貰いまわっている。 窓から心地よい風が入ってくる。 せっかくの窓際の席なのに 寝てばかりで隣のF田氏に申し訳ない。 車窓に広がる…

 第18章 早朝の列車、二等、リザーブド

朝5時前に起床。 昨日、 「アッ、モンダイナーーーーイ!!オレが起こしてやる! 駅までのリキシャーも呼んどいてやる!」 と言っていた宿の主人。 まったく起こしに来る気配は無い。 マハラジャルームで爆睡しているのだろう。 あいつ、モンダイだらけだな…

 第17章 雨が弾く光

20時を過ぎたころ 晩飯を食いに出かけることにした。 メヘラーンガルから戻ったあとは チャイを飲みながら雨に濡れた路地を眺めたり ベッドでゴロゴロしながら本を読んだりしていたが さすがに腹が減ってきた。 ガイドブックによると チョーハン・オムレツ…

 第16章 メヘラーンガル

ヨシダ君の方位磁石が差す北に向かって歩く。 入り組んだ路地が続く。 低い屋根の民家が両脇に並ぶ。 ヴァラナシの路地に似た 下町のような雰囲気。 散歩しがいがある。 次第にメヘラーンガルの姿が大きくなる。 なだらかな上り坂が続く。 雨に濡れた道は ス…

 第15章 雨上がり、砦と牛

ヨシダ君の眼鏡は いわゆるオシャレ眼鏡ではない。 背も低く、肩幅も狭く パッと見、真面目でおとなしそうな青年だ。 彼はムンバイからインドに入ったらしい。 学生で、初めての海外、初めてのインド旅行。 しかもひとり旅。 ムンバイからジャイサルメールを…

 第14章 モンダイナイ宿のモンダイナイ部屋

チャイで髪の毛がベタベタする。 軽く火傷もしているようだ。 額がひりひりと痛む。 テンションだだ下がりのなか 両手に残ったチャイの入ったカップを持って 待機場所であるマハラジャルームに戻る。 ベッドが3つ。 うち、ひとつにはモンダイナイ男のものと…

 第13章 こぼれたチャイ

鉄製の青い階段を上り屋上へ出ると そこがレストランだった。 木のテーブルと プラスチックのイスが並べられている。 雨は引き続きシトシトと降っており 屋根はあるものの イスの上には雫の玉が転がっている。 曇り空のなか屋上からは砦が見えた。 肌けた岩…

 第12章 いろいろと問題はある

最初に案内された部屋は 2階のツインベッドルームだった。 ベッドが2つ。 天井にはファン。 机とイス。 コンクリートの壁には 木製の棚が打ち付けられており 小さな置物が並んでいる。 バスルームのトイレは少々匂う。 宿泊料はふたりで800ルピー。 ひ…

  第11章 城壁、砦、ラージャスターンの地、ジョードプル

翌朝、列車は1時間ほど遅れ ジョードプルに到着した。 もうすぐ8時になる。 灰色の空。 雨がしとしとと降っている。 駅前のロータリーのあちこちに小さな水溜まり。 リクシャーが数台。 雨のせいか、まだ眠っているのか、 客引きも少ない。 それにしても体…

 第10章 オールド・デリー

そこからデリー駅まで歩いて10分ほどだった。 白とえんじ色を基調とした荘厳な駅舎。 新旧、文化、入り混じったというか、 都会的でもあり郷愁的でもある独特の雰囲気。 インドでは、世界遺産にも登録されたムンバイの駅が有名だが デリー駅だって見ごたえ…

 第9章 帰れないふたり

リクシャーの運転手の男は日本語堪能だった。 見た感じ20代だろうにたいしたもんだ。 ただし話題はすべて下ネタ。 彼女は5人いるらしい。 オールドデリーへは20分ほどで着いた。 運転手の男は 「また、デリーに戻ってきたときは俺を呼べ!」 と携帯の電…

 第8章 砂塵舞い散るメインバザール、インド国旗に敬礼を

ビクッと身体を震わせ目を覚ます。 耳をつんざく不快な音。 電話が鳴っている。 フロントからの電話だ。 インド3日目。 やっとF田氏の荷物が届いたらしい。 昨日もなんだかんだ3時前までぐだぐだと話し込んでいたから 睡眠不足感は否めない。 寝起きにフ…

 第7章 デリーの晩餐

スリにあっても腹は減る。 夕食はメインバザールから少しだけ外れたところにある グリーンチリというこじゃれたレストランで採ることにした。 エアコンが効いた暗めの店内。 2階に上る。 2階はソファもあり 照明や調度品も若干悪趣味な感じだが オシャレな…

  第6章 スリと胃腸薬

列車チケットの手配をして、宿に戻る途中、 曲がり角のところにラッシーの屋台があった。 屋台の周りには当然のようにハエが飛び交っている。 足元も何らかの液体で水浸しで不衛生感は否めない。 ラッシーなのでもちろん生水から作った氷を使っているだろう…

  第5章 チケットの手配

メインバザールを歩き ニューデリー駅へと向かう。 それにしても良く晴れている。 雷雨の予報が嘘のようだ。 サンダル履きのため 足の甲が熱を持ってチリチリと痛い。 5分も歩けば メインバザールの出入り口に辿り着く。 無数の屋台が並び ところ狭しとリク…

  第4章 旅の始まり

朝9時半に目覚ましが鳴り 目を覚ました。 サンダルを突っかけ 寝ぼけまなこでフロントに向かい 1泊延長を申し出る。 今日の夜にデリーを発つにしろ 明日、発つにしろ 宿の確保は必要だ。 部屋に戻ると F田氏も目を覚ましていた。 聞けば、インドの街中で…

  第3章 なんかおもろいこと

「いやぁ、なんかおもろいこと起きへんかなぁ。 いや、ええんやで?!楽しんできて欲しいと思っとるで?! でも、なんかおもんないなぁ。 なんか笑えるトラブルとか起きへんかなぁ。」 出国前に頂戴した上司のI田さんの台詞だ。 I田さんはF田氏のことも知…

  第2章 到着から8時間、メインバザール

タクシーが走り出すと同時に 運転手はタクシーメーターのスイッチを入れた。 プリペイドどころか料金交渉制でもないらしい。 4年前、ムンバイで改造メーターを使われ 法外なタクシー料金を請求されたことを思い出す。 窓の外の夜のデリーは以前よりも都会に…

  第1章 インディラー・ガーンディー国際空港、深夜

来ない。 F田氏が来ない。 インド、 デリー、 インディラー・ガンディー国際空港、その空港ビルの前。 時計の針は深夜0時を回っている。 現地の天気予報は雷雨だったが 雲は無く、月も出ている。 気温は30度ぐらいだろうか。 少し湿気を感じる。 昼間は…