第7章 デリーの晩餐


スリにあっても腹は減る。


夕食はメインバザールから少しだけ外れたところにある
グリーンチリというこじゃれたレストランで採ることにした。


エアコンが効いた暗めの店内。
2階に上る。


2階はソファもあり
照明や調度品も若干悪趣味な感じだが
オシャレなバーやカフェのような使われ方をしているらしい。
インド人の若者たちがウィスキーソーダを飲みながら
がやがやと盛り上がっていた。


タンドゥーリ・チキンのハーフ、
マトンカレー、
マトンビリヤーニーをオーダー。
肉ばっかりだ。
もちろんビールも頼む。


全体的に良くも悪くも洗練されていてこじゃれた味だが
マトンビリヤーニーはかなりレベルが高い。


「ヘイッ!ヘイッ!!ユー ジャパニー?!」


奥のテーブルで飲んでいた若者6人組のうちのひとりだ。
イスから振り返ってこちらを向いている。
目がうつろだ。


「イエス。ウィーアージャパニ。」


「オー!!ジャパニ!!アイ ライク ジャパン!!アイ ドント ライク チャイナ!!HAHAHAHA!!!」


あぶねぇ・・・。ふざけて中国人って言わなくて良かった。


「ユー ライク インディア?」


オフコース!」


「ベリーグッド!!!ユー ライク インディア!!HAHAHAHAHA!!!」


「バット・・・」
急に神妙な顔つきになる若者。


「バット・・・オレのほうがもっとインディアをアイシテルぜ!
 神に誓うッ!神にッ!!!HAHAHAHA!!!」



「アイ ラヴ インディア!ウェーーーイ!!HAHAHA!!!」


泥酔だ。


「アンド アイ ラヴ ジャパン!ウェーーーーーイ!!
 マイフレンド!マイフレンド!!HAHAHA!!!」




店を出てもまだまだ夜は長い。
腹はいっぱいになっていたので
ハシゴはせず宿に戻って飲むことにする。


宿に戻りエレベーターに乗ると
従業員の若いインド人も乗り込んできた。


「ビア?!」


なんで第一声がビールなんだ。


「オーケー。ツー ビア プリーズ。」
まぁどのみち頼むつもりではあったのだが。


部屋に戻るとあらためて先ほどの青年が伝票を持ってオーダーを取りに来た。
割と几帳面なようだ。
あらためてビール2本を注文。



しばらくして青年がビールを抱えて戻ってきた。


「ルームキー?」


なぜ鍵が必要なんだと思いながら部屋の鍵を渡す。
すると青年は板状のキーホルダー部分を使って栓を開けた。
器用なもんだ。


部屋にあったグラスに各々ビールを注ぐ。


うん、ぬるい。
でもまぁ、インドの安宿で頼むビールはこんなもんだとも思う。


ビールを飲みながらF田氏と雑談していると
再び部屋のベルが鳴った。


相変わらずけたたましい音だ。


ドアを開けると
先ほどの青年と
その隣にもう少し歳をくったベテランっぽいおっさんインド人がいた。
べたべたと整えられた髪、頬のシワにかかる口ひげに、いやらしい目つき。
いかにもしつこく営業をかけてきそうな顔だったが
そのとおりだった。


「おい、ジャパニ!!ビールのおかわりは?!!」


なんでこんな高圧的なんだ。
隣で青年が気まずそうにしている。
無理やり案内させられたのかもしれない。


「いや、いらないよ。ノーモアだ。」


「なんだと?!じゃ次のビールはいつにするんだ?!!」


なんだよ、次のビールって。


「いや、いらねぇって。もう充分。」


「ノープロブレム!心配するな!
 オレが予約を受けといてやる!
 3時か?4時か?5時か?
 選べ!!」


なんでそんな深夜にビール持ってこられなきゃいけないんだ。


「いや、いらねぇって!!寝るし!」


「じゃ、朝起きたときはどうだ?!!モーニングビアだ!!」


「ノーセンキュー!いらねぇ!」


「ならチェックアウトのときに持ってきてやるぞ?!チェックアウトビアだ!!」


「なんだそれ?いらねぇって!」


「2本か?!3本か?!4本だろ?!!」


いや、だから、いらねぇって!!!







― つづく ―