第8章 砂塵舞い散るメインバザール、インド国旗に敬礼を


ビクッと身体を震わせ目を覚ます。
耳をつんざく不快な音。
電話が鳴っている。


フロントからの電話だ。
インド3日目。
やっとF田氏の荷物が届いたらしい。


昨日もなんだかんだ3時前までぐだぐだと話し込んでいたから
睡眠不足感は否めない。



寝起きにフロントに行ったF田氏が
大きな緑色のリュックを抱えて戻ってきた。


フロントのやつらに
「ハッピー!?ユー ハッピー?!!」
としつこく聞かれたので
大げさにリアクションをとってきたらしい。
中身を確認したところ失くなっているものもない様子。
本当にラッキーだ。



昼飯は近場の安ホテルの4階テラス席で。
F田氏はノンベジ・ターリー、俺はベジ・ターリーを注文。
ターリーはいわゆる定食。
食欲をそそる色とりどりのカレー的なものが
バランス良くワンプレート上に並ぶ。
手前の中央にインドの香り米。
右手前にチャパティ、プーリー、
左手前にキュウリとトマトのスライスとアチャールというインドの漬物。
奥にはダヒー(インドのヨーグルト)、ダル(味噌汁的な豆のカレー)、
野菜カレーと並ぶ。
F田氏のノンベジ・ターリーは野菜カレーの代わりにチキンカレーが付いていた。
野菜カレーももちろん美味いが
ダルが絶品だった。
程よい酸味のあとにくる辛さと塩気が
豆のコクとうまくマッチしている。
そしてなによりキュウリとトマト。
トマトは濃厚、キュウリに至っては
これを食うことが、インド旅行の目的のひとつと言っても
過言ではない。
とにかくジューシー。
太さは日本のものの2倍以上あり、
種の周りのゼリー状の部分もでかい。
インドの刺すような日差しと暑さにこのさわやかなキュウリが実にあう。
これで100ルピー、約150円なら大満足だ。


テラス席はなかなかの見晴らしだった。
眼下には猥雑としたメインバザールが広がる。
ペプシを飲みながらぼんやりと行き交う人々を眺めていると
ふと珍しいものが目に留まった。
竹の竿のようなものの先端に
緑色のひらひらとした紙が無数に刺さっている。
その重そうな竿を背負って店々を回っているのは小学生ぐらいの少年だ。


なんだあれ?


デジカメをズームにするとそれがなにか判った。
緑色のひらひらしたものはインドの国旗だ。
お子様ランチに刺さっているやつをひとまわり大きくしたようなやつだ。
少年は手のひらサイズの国旗を売っているのだ。
思いのほかその国旗は売れているようで
商店のオヤジたちがその国旗を買い取っていた。
そういえば明後日15日はインドの独立記念日
この時期ならではの商売のようだ。



昼飯を平らげたあと
メインバザールを後にすることにした。
我々が乗る列車はニューデリー駅ではなく
ここメインバザールから3キロほど離れたデリー駅から出る。
出発時間は21:15の予定だったが
それまではデリー駅近くのオールドデリーで時間をつぶすことにする。


宿をチェックアウトして
リュックを背負って歩いていると
あっという間にリクシャーワーラーたちがわらわらと群がってくる。
絶好のカモなのだろう。


「ヘイッ!!ジャパニ!!ドコへ行くんだ?!」


オールドデリーだけど。」


「オーケー!!オレがガイドをしてやる!乗れ!!」


「いや、ガイドはいいよ。列車乗るために駅行きたいだけ。」


「トレインだと?!オーケー!ノープロブレム!!
 それならオレが旅行代理店に連れてってやる!!」


「いや、いいよ。チケットもう持ってるし。」


「チケットを持ってるだと?!オーケー!ノープロブレム!!とりあえずそのチケットを見せろ!!」


なんでチケット見せないといかんのだ。
こいつはパス。


「ヘイ!ジャパニ!!乗れ!!20ルピーだ!!」


安すぎ。
これは旅行代理店かみやげ物屋に連れ込まれるパターン。
こいつもパス。


「ヘイッ!!ジャパニ!!オレは1ルピーでいいぞ!!!」


うん、問題外。



結局、怪しい客引きたちを振り払いながら
100ルピーを提示してきた若くていかつい兄ちゃんのリクシャーに乗り込む。


これが今回の旅の初リクシャー。
目指すはオールドデリー









― つづく ―