第22章 屋上ランチ


テーブルに料理が運ばれてきた。
日本では信じられないような鍵事件が起きた直後だが
とりあえず空腹は満たしておきたい。


俺の前にはミックスライタ、アールー・トマト、ジーラ・ライスが運ばれる。


ライタは安定のうまさ。
それぞれ細かく刻まれた、タマネギ、トマト、キュウリ、青唐辛子が
ダヒーと呼ばれるインドのヨーグルトの中に沈む。
ヨーグルトと野菜がミックスされているという
極々小さなカルチャーショック、
10年前はたじろいたが今では大好物のひとつだ。


カレーに手をつける前に
ジーラ・ライスをひと口。
クミンの香りとギーと呼ばれる発酵無塩バターの香り。
ライタとこれだけでもイケる。


そして、カレー。
アールー・トマト、つまりはジャガイモとトマトのカレー。


ジャガイモをスプーンに乗せ、口に運ぶ。


ん?


「これ、こくま●やん!」


思わず感想を口に出してしまう。
ハウス食品のこくま●というカレールゥと極めて酷似した風味。
トマトの酸味とジャガイモのホクホク感がたまらない、
まさに家庭の味。
インドカレーでこんなことが出来るとは。


うまい。
胃にも優しそう。
・・・でもこれ、こくま●なんだなぁ。。。



食事を終えた。
さすがにカニャークマリの魚付きのミールス
ハイダラバードのハイダラバーディー・ビリヤーニーのような衝撃は無かったものの
こくま●で再現できそうなご飯に合うマイルドなカレーが
インドで味わえたのはある意味驚きだったし、満足だった。
F田氏もショウガの効いた優しいチキンヌードルスープに満足そうだ。


我々、旅行者が行くようなガイドブックに載った食堂や
ゲストハウスに併設されたレストランでは
西洋ナイズド、もしくはジャパンナイズドされた飯が出ることがしばしばだ。
大概それらは物足りないし、宿のおっちゃんやリキシャーワーラーに聞いた店に行くか
現地人で賑わってる店に行くのが一番で、それこそわざわざここまで来た甲斐がある!
といった飯に出会えることも多い。
ただ、稀に、極、稀〜に、
生粋のバックパッカーではない旅行者が行きがちなレストランで
インド料理とはまた違う、感動は無いが美味いし肩ひじ張らない飯に出会えることもある。
ここもそうだし、カルカッタジョジョス、バンガロールのソウルもそんな感じだった。
いわゆるモスバーガー吉野家のような安くて普通にうまい飯だ。
今回は短い旅だが、1ヶ月近くなる旅行では
そういった店や、マクドナルドに行きたくなる日もある。


部屋に戻り、シャワーを浴びる。
ついでに洗面所で洗濯。
そのあとF田氏がシャワーを浴びている間に
フロントから電話があり
ベランダに服を干すなということで
室内に洗濯物を取り込む。


時間は午後2時。
せっかく晴れ間も覗いているので
ジャイプール観光に出ることにする。


受付のエスパー似に相談すると
タクシードライバーを呼んでくれるという。
夜までのチャーターで800ルピーとのこと。
悪くない。


「ヘイッ!ハロー!!」


しばらくするとインド人の男が宿のロビーに入ってきた。
20代ぐらいだろうか。
背は高く、肩幅もがっちりしている。
短く刈り揃えられた髪に
太い眉毛。
鋭い眼光。


「カモンッ!」


男の車に乗り込む。


「ヘイッ!ワッツ ユア ネーム?!!」


お互いに名前を教え合う。
男の名前はハキムらしい。


ハキムは車のダッシュボードから
A4サイズの紙切れとノートを取り出し
我々に渡す。


「読め!チェック!」


A4の紙は、どうやらメールをプリントアウトしたもののようだ。
ノートには手書きで日本語や英語が書き込まれている。
中身は見ると、日本語で
『ハキムは強面ですが、ほんとはとっても優しい人です!』


うむ、確かに強面だ。
ただ、優しいかどうかはまだわからない。
他にもハキムの用意した手持ち資料には
ハキム絶賛のコメントが溢れていた。


だいたい経験上、怪しい。
この手のノートをひけらかすインド人は。







― つづく ―