第13章 こぼれたチャイ


鉄製の青い階段を上り屋上へ出ると
そこがレストランだった。


木のテーブルと
プラスチックのイスが並べられている。


雨は引き続きシトシトと降っており
屋根はあるものの
イスの上には雫の玉が転がっている。


曇り空のなか屋上からは砦が見えた。
肌けた岩山の上に広がる巨大な砦。
あれがメヘラーンガルか。
まるで山の一部のように山頂を覆っている。
眼下には壁を青色で統一した旧市街の町並みが広がる。
ブルーシティ、ジョードプル


イスの上の水玉を払い席に着く。
俺はトマトオムレツとチャイ。
甘いものがダメなF田氏は
砂糖抜きのチャイを注文。


「・・・すんません。ちょっと体調悪いんで、部屋戻ります。」


ここでF田氏の体調が限界を迎える。
腹痛と、吐き気もするらしい。
チャイが来るのを待たず
F田氏は部屋へと戻っていった。


ひとまずその後運ばれてきた朝食を平らげる。
粗く刻んだトマトをちりばめたスパイシーなオムレツ。
インドのオムレツはハズレが少ない。


さて、テーブルの上には
俺のチャイとF田氏のチャイ。
体調が悪いときは身体を温めたほうが良い。
この2つのチャイを部屋に持っていって
F田氏と飲もう。


従業員にお会計を告げると
あとで良いという。
チェックアウト時にまとめて支払うシステムのようだ。


2つのチャイを両手に持ち
部屋に戻ることにする。


それにしても
狭い階段だ。
おまけに濡れている。
両手にはチャイが入ったカップ
慎重に。
慎重に。
しん・・・


「あっ!」


ふいに視界に曇った空が入る。
見事に足を踏み外し
腰と太ももを強打しながら
鉄製の階段を滑り落ちていく。


「がっ!ぐっっ!」


こんな状況で
なんとかチャイはこぼれないように
両腕を伸ばしカップをかばう。
それでもいくらかこぼれたチャイが頭にかかる。
熱い。


そのまま下の階までノンストップ。
痛ぇ。。。


「アーユーオーケー!?」


声がしたので見上げると
屋上から欧米人らしいふたりが
こちらを心配してくれている。


うわっ。どうしよう!
外人に心配されとる!
外人に心配かけちゃいかん!
大丈夫なこと伝えないと!


「オーーー・・・シット!!」


いままで使ったこともない単語で
映画のような大げさなリアクション。


大丈夫ですよーーーー!
俺は冷静ですよーーーー!
ユーモアもありますよーーーー!


「・・・オーケー、ノープロブレム。ハハハ・・・。」


恥ずかしさで痛さも忘れるぐらい
頭が火照っているが
とりあえずやれやれという手振りで
問題ないと言っておく。


「オー、テイクケア。」


欧米人たちは労わりの言葉をかけて
自分たちの席に戻っていったが
続けてモンダイナイ男が血相を変えて駆け寄ってくる。


「ヘイッ!アーユーオーケー??!」


いかん。
俺は大人の男なのだ。
大人のジャパニなのだ。
動揺を見せてはならん。


「おーけー。問題なーーーい。」
へらへらと応える。


「ノー。ビッグプロブレム!
 モット身体を大事にシロ!!」


割りと本気で心配される。


あ、そうですよね。。。


タオルをもらい
頭にかかったチャイを拭う。
カップの中には
半分ぐらいまだチャイが残っていた。







― つづく ―