第12章 いろいろと問題はある


最初に案内された部屋は
2階のツインベッドルームだった。


ベッドが2つ。
天井にはファン。
机とイス。
コンクリートの壁には
木製の棚が打ち付けられており
小さな置物が並んでいる。
バスルームのトイレは少々匂う。
宿泊料はふたりで800ルピー。
ひとり約600円というところだ。


部屋自体は清潔で悪くはなかったのだが
どうせならバルコニーがある部屋に泊まりたい。


「他の部屋も見ていい?」


「アッ!・・・モンダイナーーーーイ!!!」


フロントの男の許可を得て
宿内を散策。


コンクリートにペンキを塗っただけの
幅の狭い階段を上る。
3階に出るとちょうど正面に大きな木の扉。
扉の上にはマハラジャルームと書かれている。


予算は割りと余裕があった。
F田氏の体調も悪そうだし
マハラジャルームに泊まるのもありだ。


フロントの男に
マハラジャルームを見せてくれと頼む。


「ノー。このルームは空いていない。」


ここはモンダイ無くないらしい。


「他に空いてる部屋は無いの?
 出来ればバルコニーがある部屋。」


「アッ!オマエはジャパニーズのガイドブックを持っているな!?
 見せてみろ!」


男は質問には答えずガイドブックを要求する。
言われたとおり「地球の歩き方」を渡す。


「ジョードプールのページを開いてみろ!」


すぐに突き返す
モンダイナイ男。


「ほら。」


ジョードプルのページを開いて
再び渡す。


「・・・オーケーイ。イエス!ココを見てみろ!
 ディスカバリー・ゲストハウス!!
 うちの宿だ!
 グッドな宿だ!フェイマスな宿だ!
 マハラジャルームじゃなくてもグッドな部屋はある!」


分かったからそのグッドな部屋を見せろよ。


「アッ!・・・ところでオレはオマエと同じガイドブックを持っている!」


そう言うとフロントの奥の棚から
地球の歩き方」を取り出すモンダイナイ男。
表紙を見ると2008年版だ。


「コレをオマエが持っているガイドブックとチェンジしてやる。」


なんで俺の最新版と交換せねばならんのだ。


「いや、交換しねぇよ。」


「アッ!!」


男は目を見開いて中空を見つめる。


「モンダイナーーーーイ!!!」


鬱陶しい。


それにしても胡散臭い日本語だ。
どこで覚えたのかを訊くと
日本人はだいたいしゃべる前に「アッ」とつけるから
面白がって真似しているらしい。
なんて失礼なやつだ。
でも確かに
「あ、大丈夫です。」とか
自分もよく言っている。



結局、マハラジャルームの下、
2階のデラックスルームを借りることにした。
間取りはマハラジャルームとほとんど同じだそうだ。
だが、先客がチェックアウト前で
30分ほど待つ必要があるらしい。
その間、マハラジャルームで待機していても良いとのことだ。


マハラジャルーム?
 おまえさっき空いてないって言ったじゃん?
 宿泊客に許可取らなくて大丈夫なの?」


「アッ!!」


男はくわっと目を見開く。


「モンダイナーーーーイ!!
 ビコーズ!オレが使ってるルームだからだ!」


曰く、この男はこの宿の運営のために
別の町からしばらく出張?で来ているそうだ。
雇われ支配人のようなものだろうか。
とはいえ、一番良い部屋を自分で使うとはいかがなものか。



取り急ぎマハラジャルームに荷物を置いて
屋上のレストランで朝食を採ることにする。



このあと
ちょっとした事故が起こる。


我が上司、I田さんの呪いは
まだ終わってはいなかったのだ。






― つづく ―