第21章 鍵の数と同じはず


屋上のレストランからは
360度ジョードプルの街が見渡せた。
久しぶりの快晴で、乾いた風も気持ち良い。


さっそく席に着こうとすると
満面の笑顔のインドの兄ちゃんに声をかけられる。
後ろになでつけた髪にチョビ髭、パリッとしたシャツを着ている。
どうやらこのホテルの従業員のようだ。
「ヘィ!話してみろ!」
脈絡の無い提案。
笑顔のまま携帯電話を渡される。
あ、うん。


携帯電話を耳に当てると
「ハロー。」
女性の声が聞こえてきた。


「オレのステディだ!ほら!あそこにいる!」


兄ちゃんが町のほうを指差す。
その指が差す先に石造りの住宅があり
サリーを着た女性が耳に携帯電話をあてながら
こちらに手を振っているのが見える。
薄い緑色の涼しげなサリー。
兄ちゃんの彼女らしい。


「キュートな声だろ!?」


ドヤ顔でニヤつく兄ちゃん。
え、あぁ、、、うん。


満足した兄ちゃんは俺から携帯電話を取り戻し
引き続き彼女とスウィートトークを続ける。
いや、仕事しろよ。



引き続き堂々とサボる兄ちゃんをしり目に席に着く。
別の従業員がメニューブックを持ってきた。
俺は、
米にクミンを混ぜたジーラライス、
ミックスライタ、
アールー・トマト、つまりはジャガイモとトマトのカレーを注文。
F田氏は体調を考慮して
ミルクとチキンヌードルスープと
チーズオムレツを注文。
インドでミルクは、、、と一瞬思ったが
まぁ、割りと清潔な宿みたいだし大丈夫か、と言葉を飲んだ。


そういえばミネラルウオーターを部屋に置いたままだ。
F田氏にはミルクがあるが
俺にはドリンクがない。


食事の提供を待つ間、いったん部屋に戻ることにした。
F田氏から部屋の鍵を預かり
階段を降りる。


暗い階段を降り、
部屋の前に立った瞬間
ある違和感。
ドアにかかったプレート。
よく見ると我々の部屋の番号は、
107号室。
4階にもかかわらずだ。
・・・まぁ、そこまではいい。
それよりも問題は、
手元のカギ。
金板のキーホルダーには108と刻まれている。


この108の鍵で、
さっきまで我々の部屋、107号室のドアは開いていた。


そして隣の部屋は108号室。


とりあえず手元の鍵を
我々の部屋の鍵穴に突っ込んでみる。
もちろん開く。
108の鍵で、107の部屋のドアが開くということだ。


うむ。
で、隣の部屋。
鍵穴に鍵を突っ込み
右に回してみる。


ガチャリと言う音。
うん、開くね。
開いてしまうね。


さすがにドアを開けることはしなかったが
この108の鍵で
108号室と107号室の両方が開けられることが判明。
・・・いや、下手したら全部屋、鍵共通なんじゃないだろうか。


そのままロビーまで階段を降り
フロントに事情を報告。


「オーケー、キーを見せてみろ。」


フロントのエスパー風のインド人に
鍵を渡す。


エスパーが鍵から108と刻まれたキーホルダーを外す。
そして、引出しから別のキーホルダーを取り出す。
キーホルダーには107の文字が刻まれている。
そのまま鍵に取り付け
107のキーホルダーがついた鍵の完成。


「オーケー?」


うーーーん、根本的な解決になってないんだよなぁ








― つづく ―