第5章 チケットの手配


メインバザールを歩き
ニューデリー駅へと向かう。


それにしても良く晴れている。
雷雨の予報が嘘のようだ。
サンダル履きのため
足の甲が熱を持ってチリチリと痛い。


5分も歩けば
メインバザールの出入り口に辿り着く。
無数の屋台が並び
ところ狭しとリクシャーが乗り上げてくる。
その向こうに道路を挟んでニューデリー駅が見える。


駅前のT字路はさすがの混雑っぷり。
車、リクシャー、バイク、牛車が
ひっきりなしに行き交う。、
F田氏にインドの道路の渡り方をレクチャー。
その渡り方とは
次々とこちらへ向かってくる車を
「ストーーップ。止まれー」って感じで
手のひらをかざして制し
スピードを落とした車の間をするするとすり抜けていくという
インドのおばちゃん直伝の荒技だ。
相変わらずこれでちゃんと横断できるのだからすごい。


T字路を渡った先がニューデリー駅。
「ヘイ!ジャパニ!チケットか?!
 オレが案内してやる!無料だ!」
デリーで定番の
駅で話しかけてくる怪しいインド人を軽くあしらって
駅構内の予約オフィスに到着。
オフィスの壁沿いにイスが並べられていたが
すべて埋まっている。
それに加えて立っている人もいる。
20人超の行列だ。


「これ、きついっすね。たぶん2時間ぐらいかかりますよ。」


目標は今夜中にデリーを発つこと。
1ヶ月規模の旅なら
ゆっくり順番を待ってもいいが
とにかく時間が少ない今回の旅。
F田氏と相談しここは旅行代理店を使ってみることにする。


8年前はいわゆる悪徳旅行代理店につかまり
大変な目にあったが
ガイドブックに載っているところなら
さすがに安全だろう。


駅でのチケット取得をあきらめて
いったん宿に戻る。


ロビーでF田氏が振り返る。
「あ、ちょっと待っててもらっていいですか?
 荷物見つかったらキャセイから連絡あるはずなんで。
 一応、この宿の電話番号も伝えてあるんですよ。
 宿のやつらにそのこと伝えておかないと。」


フロントの男に
ロストバゲージの経緯を説明するF田氏。
しかし、なかなか要領を得ない。
俺も加勢していろいろ伝えようとするが
英語力の無さが災いしまるで伝わらない。
ロストバゲージがなんたるかも理解してもらえていない。
もはや「荷物無くした!責任取れ!」と伝わり
「いや、知らねーし。うち責任ねーし!
 ポリスに行け。」
と言い返されているようである。


そのときロビーの電話が鳴った。
フロントの男は我々を手で制し
電話に出る。


「ハロー。
 ・・・イエス・・・・。
 アー、イエス・・・。」


少し間を置き
男は受話器を口元から放し
我々のほうに向き直る。


「オイ!エアラインだ!
 キャセイパシフィック・エアラインって言ってるぜ。」


偶然にもキャセイからの連絡がちょうど入ったらしい。
受話器の口を押さえ
我々に代わろうとするフロントの男。


「え、ちょ、ちょっと待って。」


はっきり言って身振り手振りすらない電話で
キャセイのスタッフの英語を完璧に聞き取る自信は無い。


「えーっと、そうだ!
 エクスキューズミー!プリーズ!」
後ろにいた両替のおっちゃんに対応をお願いする。
彼は朝話した時にとても感じが良く、英語、もっと言えば
日本人に対しての英語もうまかったからだ。


両替のおっちゃんにキャセイとの間を取り持ってもらって
なんとか結論が出た。
まず、F田氏の荷物は香港で見つかった。
キャセイがこの宿まで届けてくれる。
ただし、届くのは明日の朝。
もしくは今夜空港まで受け取りに行くかだ。
どちらにしろ、もし、今夜デリーを発つチケットがこのあと取れれば、
F田氏が荷物を受け取れるのは帰国日となる。



受け取れるかどうかは別として
荷物が見つかったこと自体は朗報だ。
あとは今日、このあと、列車のチケットが無事取れれば
旅が動き出す。


部屋でガイドブックを見ながら一服したあとに
旅行代理店に向かうことにする。


選んだのはシゲタトラベル。
日本人の間で大人気のデリーの旅行代理店だ。
なんせ「地球の歩き方」で2ページもの広告スペースを持っている。


宿から徒歩5分の場所にあったシゲタトラベルでは
日本語堪能なインド人スタッフが
手早く丁寧に対応してくれた。
客も日本人ばかりだ。
やけにアーグラーを勧められたりもしたが
想像以上に旅行代理店は便利で
僅かな手数料で今回の旅、全日程分の列車チケットを確保できた。


残念ながら、この時点でジャイサルメールはチケットの都合で消え
アジメールは日程の都合で消える。
まずは寝台でジョードプルへ。


出発は今夜。
チケットの本発行は
今日の夕方になるらしい。
また、夕方にチケットを受け取る約束をして
シゲタトラベルをあとにする。


F田氏はバックパック無しで
西インドに向かうことが決定した。


服もせっけんもねぇな。






― つづく ―