第24章 エンポリウム?インダストリアル?シルク?ノータカイ、ミルダケー


「工場があるんだ。
 シルク工場が。
 ジャイプルのシルクは良いぞぉ!
 ヴァラナシよりグッドだ!
 工場を見学できてしかも!チープなプライスで買えるんだ!
 おまえのガールフレンドに、マザーに、シスターに、ギフトだ!」


アンベール城の頂上から
来た道を下り車に戻ると
当然のごとくハキムが次のビジネスを提案してきた。


正直、今までの経験から
なにやら物を売りつけられるのは目に見えていた。
しかし、下ネタこそ目立つものの
ここまでハキムは誠実に、
少なくとも見た目上は誠実に対応してきてくれていた。
それに応えるのが義理と言うものだろう。
日本人の悪い癖だ。
まぁ、、、行ってみることにした。


車で5分ほど。
案内されたのはありがちなインドにありがちな工場兼直売所。
パッと見、想像した「工場」とはかけ離れていたが
木版染めがここのウリらしく
職人たちが木製のスタンプを布に押し当て
模様をつけている。


「フォトを撮ってもいいぞ!」


ハキムがガイドとしてサービスを提案。
とりあえず写真を撮って
職人たちの作業を見学していると
前頭部がきれいに禿げ上がった、そこそこ偉そうなおっさんが現れる。
「マスター!次はこちらへ!」
促され、工場に隣接する部屋に移動。
そこは作業場ではなく
れっきとした倉庫、兼販売場だった。


20畳はあろうかという広い部屋。
床には豪勢な絨毯。
四方は棚で埋め尽くされ、
棚には色とりどりの布が押し込められている。
横に付いていたポロシャツの男が
すっと視界から消える。
振り返ると、男はすでに部屋の入り口のドアの前に立っている。
これで出入口は塞がれた。
ハキムも我々から距離を置く。
目の前にはハゲのおっさんと
その側近の若いちょび髭達。


「ディス イズ グッドシルゥク!
 ジャイプルのシルクは
 インドでナンバーワンだ!」


禿げたおっさんの満面の笑み。
両手を広げての前口上。
それがバトル開始の合図だった。





― つづく ―