第19章 Mr.RTDC


歌うたいの声で目を覚ました。
いつの間にかまたうとうとしていたらしい。
列車内の通路では、歌うたいが歌を唄い、小銭を貰いまわっている。
窓から心地よい風が入ってくる。
せっかくの窓際の席なのに
寝てばかりで隣のF田氏に申し訳ない。


車窓に広がるインドの田舎。
山や荒地が次々と移ろいでいくなか
ぼんやりとただそれを眺める。
結構な贅沢だ。
時折、村に差し掛かる。
レンガ造りの家の前に
カラフルな服が干されている。
広い田畑を横切る細い畦道。
カバンを背負った2人の少年が歩いている。
学校へでも向かっているのだろうか。
行く先には引き続き田畑が広がるばかりだ。



次の駅に到着したところで
F田氏が駅に降り、
インドの天ぷら、パコラを買ってきた。
新聞紙に包まれた列車クオリティのパコラ。
ジャガイモだかカリフラワーだかを全粒粉の衣で揚げている。
もっさもさ。
具より衣のほうが多い。
ただクッキーのような食感のスパイシーな衣は
それはそれで旨かった。


窓際を独占するのも申し訳なかったので
F田氏と席を変わる。



しばらくすると窓の外に大きな湖が現れた。
鈍い銀色の湖面には、空が映る。
手前は曇り空、遠くのほうには晴れ間も見える。
その向こうに水平線。
豊富な水を湛えた鏡のような湖。
車窓からの景色が空一面だ。
これも雨季ならではの風景かもしれない。


列車は走り続ける。


流れる景色に徐々に石造りの建物が増えてきた。
壁が淡いピンク色をしている。
ピンクシティ、ジャイプルが近づいてきている。



予定到着時刻より30分ほど遅れ
11時過ぎにジャイプルに到着した。
運よく晴れている。
快晴とはいかないが
ジョードプルでの天気よりだいぶましだ。


「ヘイッ!ヘイッ!
 ハロー!ハロゥ!!」


ホームを出たところで
ワイシャツを着た背の高いおっさんに声をかけられる。
七三分けにぎょろりとした眼。チョビ髭。


最初はいつものホテルの客引きかリクシャーワーラーかと思ったが
その男は「オレはRTDCだ!」を連呼している。


RTDCとは、
Rajasthan Tourism Development Corporation
の略。
つまりは、ここジャイプルがあるラージャスターン州
公認観光局みたいなものだ。


我々の警戒心など意に介さず、男はしゃべり続ける。


「オレはRTDCの人間だからセーフティだ。
 いいか?オレはRTDCだ。
 オレについて来ればノープロブレムだ。
 カモンッ!!ジャパニ!」



あかんわ。
超うさんくさいわ。



とは思いながらも
一応ついて行ってみる。









― つづく ―