第11章 城壁、砦、ラージャスターンの地、ジョードプル


翌朝、列車は1時間ほど遅れ
ジョードプルに到着した。


もうすぐ8時になる。


灰色の空。
雨がしとしとと降っている。
駅前のロータリーのあちこちに小さな水溜まり。
リクシャーが数台。
雨のせいか、まだ眠っているのか、
客引きも少ない。


それにしても体調が優れない。
昨夜の寝台のせいだ。
AC3Tier、エアコン車両の3段ベッド。
列車に乗りこんですぐ、駅員によって寝具が配られた。
枕、シーツ2枚、そして毛布。
インドの線路は広軌道。
幅が広いため、揺れも少ないし、そもそも車内も寝台自体も広い。
エアコン車両ということもあり
ぐっすり眠って疲労をリセットするはずだった。
誤算はシーツが湿っていたこと。
雨に濡れたのか
重さを感じるぐらい湿っている。
これでエアコンが裏目
湿ったシーツは乾くことなく
エアコンの冷気もあって
2枚のシーツが身体から熱をどんどん奪う。
加えて肌ざわりが気持ち悪い。


F田氏のシーツももちろん湿っていたらしい。
顔色が悪い。



ひとまず屋根のあるところで
ガイドブックを開き
目ぼしい宿を探す。


「ヘイッ!ホテェル?!」


ようやくリクシャーワーラーが声をかけてきた。
ディスカバリーという宿を勧めてくる。
確かガイドブックにも載っていた宿だ。
しかもリクシャー代は2人で50ルピー。
コミッションが貰えるのだろう。
この男のリクシャーに乗せていってもらうことにした。


雨を弾いてリクシャーが走り出す。


昼までに雨は止むだろうか。
スコールのような降り方ではなく
日本の梅雨のような雨のため少し心配になる。


山の上に赤茶けた砦が見える。
道端に野良牛がいる。
道が舗装されていないせいか
リクシャーはよく揺れる。


大きな門を抜けて城壁に囲まれた旧市街に入り
1分もすると、ディスカバリー・ゲストハウスに到着した。


宿の周りは旧市街という言葉がぴったりで
下町のような雰囲気が心地よい。


フロントにはガタイの良い30歳前後の男が座っていた。


「オハヨーゴザイマース!!」


胡散臭い。


「ハロー。部屋、空いてる?」


先ほどの笑顔と打って変わって
男の顔がにわかに曇る。
伏し目がちに少しうつむく。
しかし次の瞬間、男は顔を上げ
くわっと目を見開き
なにかを発見したかのように叫ぶ。


「アッ!!!」


続けてカタコトの日本語。


「モンダイナーーーーイ!!!」





・・・なんだこいつ?













― つづく ―