両広旅行記

 【17】 你好再見

眼が覚めたときにはもう遅かった。 午後4時。 旅の最終日。 分厚いカーテンのせいで外の様子は伺えないが もしかしたら空はもう茜色かもしれない。 本当は温泉に行こうと思っていた。 中国ひとり旅の締めとして 日帰り温泉にでも行こうと思っていた。 だが…

 【16】 蛋

列車は広州に到着した。 朝9時の手前。 初めて降り立った中国の街。 その広州に4日ぶりに戻ってきた。 短い旅だと思う。 駅舎を抜けると まだ朝だと言うのに 強烈な日差しが肌に刺さる。 南寧でも桂林でも同じ朝の日差しを浴びたのに これは広州ならではの…

 【15】 翡翠石

おとついの時点で既に浅黒かった肌に さらに磨きが掛かっている。 俺が陽朔に行っている間 目の前のこの男は 若い稲穂の鮮やかなグリーンが広がる龍勝で もう一皮、陽に焼けたのだろう。 残り1時間の桂林の夜。 上海から旅行に来たという胡散臭い中国人との…

 【14】 斜陽

バスは桂林の駅前に終着した。 太陽は駅舎に隠れるほど傾いている。 もうすぐ空は茜色に染まるのだろう。 列車の出発時刻までたっぷり4時間はある。 どこかで時間を潰そうと 大通りから派生する小路に入ったり出たりしているうちに 「BAR」と書かれた看…

 【13】 漓江

イカダの穂先が 水を切る。 下流から 上流へ。 広西チワン族自治区を南北に流れる大河、漓江(りこう)を遡る。 竹を10本まとめたイカダ。 竹の上に薄い木の板が張られ その上に座席が3席。 乗客は俺ひとり。 座席の後ろにはモーターが取り付けられており…

 【12】 田螺

宿の正面玄関でタバコを吹かしながら雨宿り。 目の前を通り過ぎる雨が 太い線から細い糸に変わり 間もなくまばらな点に変わる。 地面を叩く音も聞こえてこない。 眼下を覗き込むと もやりとした湯気が広がりだしていた。 人々も頭上を気にすることなく 通り…

 【11】自転車的小旅行

まるで水墨画の世界だ。 無機質なアスファルトの道路の脇には 畑や水田が広がり その向こうに細長く丸い山が連なる。 陽光をはじいた稲の緑と 山々の深いグリーン。 時に橋がかかり 眼下にゆったりと川が流れ イカダが浮かぶ。 川沿いに並ぶ観光客用のカラフ…

 【10】 陽朔

車内がざわざわとうごめきだしたのを 希薄な意識の上で察し 眼を醒ました。 右手の通路を 乗客達がリュックを座席にこすらせながら歩き 前方の出口に向かっている。 いつのまにか眠っているうちに いつのまにかバスは陽朔(ヤンシャオ)に到着したようだ。 …

 【9】 米粉

「ワタシはキュウカでリョコウに来マシタ。 道がワカラナイので中国人かと思ってアナタに声をかけマシタ。 アナタがニホンジンとは驚きマシタ! ワタシは実は上海の日本企業で働いていマス。 ニホンジンは皆トモダチです!」 「はぁ・・・。」 土曜日の朝。 …

 【8】 桂林到着

列車は1時間遅れて 20時20分に桂林に到着した。 ケツが痛い。 南寧から乗った列車のクラスは硬座。 文字通り最安値の硬い座席車両であった。 車内は禁煙のはずだが 車両の連結部では皆モクモクとタバコを吸っていた。 連結部は車内には入らないのだろう…

 【7】 青岛啤酒

客のフリをしてドアマンに扉を開けてもらい フロント前を颯爽と通り過ぎ トイレへ一直線。 ゆっくりと用を足したあと ソファでくつろぐブルジョワ達を尻目に 再びドアマンに扉を開けてもらい 何事も無かったかのように外へ。 4ツ星ホテルの綺麗なトイレで …

 【6】 南寧

朝9時、列車は少し遅れて南寧駅に到着した。 南寧は広西チワン族自治区の首府であり ベトナムとの玄関口でもある街。 民族も所謂中国人である漢族ではなく チワン族が約半数を占める自治区だ。 駅前には田舎のフェスティバルのように 多くのテントが並んで…

 【5】火車

列車内にはカノンが流れていた。 広州を発つまで あと10分。 広州2日目は 雨が降ったり止んだり そんな空模様だった。 三度の雨上がりの隙間を縫って 陳氏書院跡を後にした俺は 地下鉄を乗り継ぎ一旦広州駅へ。 駅舎の屋根に掲げられた電工掲示板で 列車…

  【4】安全地帯

懐には約5万円分の中国元。 思いのほか中国の物価が高そうだったので 飯を食った後、その辺にあった市銀のような銀行で両替を行なった。 両替には1時間ほどかかった。 中国人は心配性なのかもしれない。 多くの中国人と出会ったわけでもなく まだまだ2日…

  【3】広州

高く響くエンジン音。 鉄を叩く音。 鉄がぶつかる音。 鉄に穴をあける音。 男達の掛け声。 いわゆる工事の音だ。 それが窓越しに、意識越しにぼんやりと聞こえる。 朝9時。 眼を覚ました。 冷房と掛け布団のおかげで 驚くほどぐっすり眠れた気がする。 部屋…

  【2】第一夜

深夜23時。 未だ宿は無し。 予想より大分遅くなってしまった。 誤算だ。 さすがにこの時間に見知らぬ街、いや国を彷徨いたくない。 もうひとつの誤算はバスが到着した場所が 「意外に都市部」だったこと。 たくさんの車が行き交う大きな道路、その脇に並ぶ…

  【1】広州上陸

夢の中、聞き慣れない声が割り込んできて 眼を醒ました。 機内はわずかに揺れている。 離陸時に寝てしまう癖がある俺は どうやら今回も例に漏れず寝てしまったらしい。 前方が騒がしい。 眠りを妨げた声の主は彼のようだ。 40代ぐらいの男が席から立ち上が…