第23章 ムスリムの街 ― in Hyderabad 1 ―


スィカンダラバードへ向かう
夜行列車。


斜向かいの席は
とっても陽気な軍人達。


「チャイニーズ??」


「いや、ジャパニーズだ。」


「オー!ジャパニ!グッドグッド!」


喜ぶ軍人。
チャイニーズだとバッドだったのだろうか・・・。
肩から提げたマシンガンが気になる。


「インディア イズ グッド?!」


と、別の軍人。


「おーーベリーグッド!!アメージング!!」


「オーー!!ベリーグッド!!ユアマイフレンド!!」


どいつもこいつも
マシンガンをぶら下げてやがる。


その隣の軍人。


「ハウ ロング ステイ?!」


「1ヶ月の予定だ。」


「オーーワンマンス!!グレイト!!」


手を叩いて大喜びだ。
って、お前銃口!!
銃口がこっち向いてっから!!



そのうち夜も更け
また陽の光を感じて目を覚ますころには
列車はスィカンダラバードの駅に到着していた。


座席に括りつけたリュックのチェーンを外す。
寝ぼけ眼でリュックを背負い
スィカンダラバード駅のホームに降り立つ。


まぶたを焦がすほどの強烈な日差し。
もう9時だ。


「あいつら一晩中交代で見張りしてましたね。」


夜中、ナベタクがトイレで目を覚ますと
軍人のひとりがマシンガンを構えて立っていたと言う。


おかげで山賊やスリに襲われることなく
無事、アンドラ・プラデーシュ州に入れたのかもしれない。


「とりあえずハイデラバードに行こうか。」


スィカンダラバードとハイデラバードは双子都市。
フセイン・サーガルという名の人造湖を挟んで
隣どおしだから距離は近いはずだ。



駅前でリクシャーを捕まえると
30分ほどでハイデラバード駅に着いた。


まずは駅構内へ。


予約窓口は割りと空いていたので
ブバネーシュワル発カルカッタ行きの
2等座席を予約。
ハイデラバードからブバネーシュワルまでの列車は
バンガロールで既に予約してある。
これで一応はカルカッタまでの日程が決定したことになる。
時期のせいなのか
ここまでの列車は全てウェイティング(キャンセル待ち)・チケット。
これまでは運良くキャンセルで繰り上がり
なんだかんだ列車に乗れてきたわけだが
最後までそんな幸運が続くとも限らない。
取れるうちに取っておいたほうが安心だろう。
2週間後にはデリーから日本行きの飛行機が飛ぶのだ。
列車に乗れず
デリーまで辿り着けないというのが一番怖い。


とはいえ
今回予約した
ブバネーシュワル⇒カルカッタ間も
ハイデラバード⇒ブバネーシュワル間も
両方ともウェイティング・チケット。
特にハイデラバード⇒ブバネーシュワル間は100人以上のキャンセル待ち。
一抹の不安を抱えたままだったが
ひとまず今日泊まる宿を探すため
駅を後にする。



インド6番目の都市なだけあって
ハイデラバードも都会であった。
ところどころなぜか水浸しだが舗装された道路
交通量はチェンナイやバンガロールより多いかもしれない。
高層ビルこそ無いものの
ショッピングモールやショールームのようなものまであった。
イスラム帽をかぶっている人たちも多い。
全人口の70%強がヒンドゥー教徒であるインドで
ここハイデラバードは人口の半数がイスラム教徒というのも頷ける。
そもそも街名に含まれる「アーバード」は
イスラム教徒が作った街を意味するらしい。


それにしても暑い。
酷暑期は40度も越えるといわれるハイデラバードは
この時期も充分暑かった。


リュックを背負い
背中に汗をためながら
歩くこと30分。
大通りから少し外れた
やたら電化製品を売る店が並ぶ細い路地に
ホテル・スヘイルがあった。


バルコニー、ホットシャワー付きでひとり200ルピー。
申し分ない。
そのままチェックイン。


昼飯は近くのレストランでエッグ・ビリヤーニーとラッシー。
部屋に戻ってホットシャワーを浴びようとしたが
水しか出ない。
従業員がやってきたり
従業員じゃないおっさんがやってきたり
バスルームでがちゃがちゃやっていたが
結局どうにもならず
オーナーが部屋を換えてくれた。


新しい部屋はベッドが4つ。
同じ料金で泊まらせてくれるらしい。
もっとも4つあるベッドのうち
ひとつは底が半分抜けていて
寝れるようなものではなかったが。


昼間はバスルームで洗濯を済まし
昼寝。
だらだらと夜を待つ。



ほんの気持ち涼しくなったと感じられるころ
身支度を整え
ロビーへ。


出かけるのだ。
晩飯を食いに出かけるのだ。


俺はマトン・ビリヤーニーを食うために
この街に来たのだ。


タバコのパッケージにもなっているチャール・ミナールや
1万人もの信者を収容できる巨大モスク、メッカ・マスジットや
周囲3キロにも及ぶ16世紀の巨大な古城、ゴールコンダ・フォートを見るために
この街に来たのではない。


その昔、糖尿病を患っていた当時の藩王が、
医者に一日にスプーン2杯だけビリヤーニーを食することを許されていた藩王が、
乗せ固められる最大量のビリヤーニーをスプーンに2杯だけ懸命に盛り、
とても藩王とは思えないような作法で無我夢中で食したと言われるビリヤーニーを
インドで一番美味い
即ち世界で一番美味いマトン・ビリヤーニー、ハイデラバーディー・ビリヤーニーを食うために
この街に来たのだ。


フロントで尋ねる。


「俺はハイデラバーディー・ビリヤーニーを食うためにこの街に来たんだ。
 この街で一番美味いハイデラバーディー・ビリヤーニーを出す店を教えてくれ!」


フロントの男は
にやりと笑って地図を差し出した。


「それならホテル・シャダブ以外に無い。
 シャダブだ。
 シャダブのビリヤーニーはナンバーワンだ。
 リクシャーでチャール・ミナール前の広場まで行き
 そこから歩いてすぐだ!」


シャダブか。
カニャークマリのナンダーナーもそうだったが
インドではレストランや安食堂も「ホテル」の名を冠する。
ホテル・シャダブ・・・。
迷い無くフロントの男はその名を口にした。


夕闇迫るハイデラバード。
我々は宿を後にする。










つづく