第22章 列車を待つ間 ― in Bangalore 2 ―


カラリと晴れた空が
紫色に染みていく。


サモーサー
サモーサーと繰り返しているうちに
陽はすっかり暮れてしまった。


駅の傍にある
安食堂が
色とりどりの電飾に光を点しだす。


サモーサー
サモーサーと繰り返しているうちに
腹も減ってきた。


飯でも食おうか。


さすがにサモサは食傷気味だが。


我々は
飛んで火にいる夏の虫のごとく
赤や青の電飾が怪しく光る
安食堂に吸い寄せられていった。



まだ日が暮れたばかりなのに
食堂にはたくさんのインド人。


屋根はあるが
壁は無い。


立ち込める熱気と
客達のざわめき
薄闇
ほのかな光
夏祭りを思い出させる。


銀色のトレイを持って
カウンター前の列に並ぶ。
注文はカウンターで行い
食事を貰った後は
赤いプラスチックのテーブルに着く方式のようだ。


「ベジプラーオ!」


なるべく胃にやさしそうな
メニューを頼む。


「ノー!」


ノーだ。
はっきり言いやがる。


「えっ?メニューに書いてあるじゃん。」


「ベジプラーオは7時からだ!」


作れば・・・
いいと思うよ。


「じゃエッグビリヤーニー!」


「7時からだ!」


「・・・チキンカレー?!」


「・・・7時からだ!!」


店員がイライラしてきている。


さて、どうしよう。
どうしたい?
観察だね。妥当な線として。


俺がカウンターの前で立ち尽くしている間
後ろに並んでいた隣のインド人のトレイに
先に飯がよそわれる。
チキンライスのような色の炊き込みご飯
ダヒー(インド式ヨーグルト)
きゅうり、紫たまねぎ、アチャール(漬物)
そしてカレーっぽいもの
4つあるトレイのしきりに満遍なく。
セットメニューだろうか?
実に美味そうだし
栄養バランスも良さそうだ。


隣のインド人のトレイを指差し
店員に問う。


「ワッツ、ディス?!」


「・・・ライスバス!!」


ライスバス・・・?
聞いたことが無いメニューだ。
いや、そもそも本当に「ライスバス」と言っているか聞き取れもしない。


「えっと、じゃあ、これを!!!」


「・・・オーケー!」


トレイの4つある仕切りのうち
ひとつにチキンライスのような色の炊き込みご飯
もうひとつにダヒーが盛られる。


・・・・・


・・・えっ?
トレイの4つあるスペースのうち
ふたつはチキンライス系ごはんとダヒーで埋まった。
残りふたつには
・・・なにも乗っていない。


「あれ?!これなんか足りなくない?!
 ここ!ここ!
 ここスペースあまってるよ!!」


残りふたつのスペースを指差し
店員に訴えかける。


「オーケー!ノープロブレム!!」


店員がオタマをかざす。


バサッ!!


残りふたつのスペースが埋まる!


チキンライス系ごはんとダヒーで・・・。


あれ・・・?


あ、そうか・・・
そうなのね・・・
ライスバスってこのチキンライス系ごはんのことなのね・・・。
俺の4つのトレイは
ライスバスふたつと
ダヒーふたつで埋まってしまった。


しかし、それで15ルピー(30円)。
安いし食ってみると美味いしでまぁ結果オーライか。
栄養バランスは
ミニッツメイド20ルピーで補うことにする。



飯を食った後は
食後のチャイを飲み
RAILNEERを買って
早めにホームへ。



列車は意外にも1時間早く
バンガロールの駅に到着した。


ここからは
スィカンダラバードまで12時間の列車の旅。


いよいよ旅は後半に差し掛かる。


列車に乗り込み
荷物をチェーンで座席の足に括りつける。


近くの席は気さくなインド人達。
気さくに我々日本人に話しかけてくれるインド人達。
気さくな筋骨隆々としたインド人達。
気さくな目つきの鋭いインド人達。
気さくな迷彩服のインド人達。
気さくに座席の下に鉄製の箱を仕舞い込むインド人達。
鉄箱の中身は・・・。


「ウェポン!」


武器か・・・。
武器なのか・・・。


スィカンダラバードは
インド屈指の軍事都市。
彼らは軍人なのだろう。


・・・よっしゃぁ!!
これで山賊が列車ジャックしても安心だ!!


列車は
武装山賊がはびこると言われる
アンドラ・プラデーシュ州へ向かう。


今、21世紀ですけど・・・。


外務省
海外安全情報
アンドラ・プラデーシュ州
渡航の是非を検討してください」










つづく