第20章 A/C 3-Tier Sleeper


12時55分トリヴァンドラム発
翌朝6時55分バンガロール着の
バンガロール・エクスプレス。


所要18時間。
今日は一日列車の中で過ごすことになる。


遅めの朝食は
エッグサンドイッチとラッシーで済まし
3番ホームで列車を待つ。



もちろん12時55分を過ぎても列車は来ない。
太陽の光は容赦なくホームを焦がす。
我々は出来るだけ日陰の場所を探し
気長に待つ。



定刻を30分過ぎたころ
列車の警笛が聞こえた。


その瞬間
線路に飛び降りるインド人達。
それに倣い
俺も線路に飛び降りる。


線路の向こう
インド人達の視線を追いかける。
視線の先には
蜃気楼でも見えそうな白い靄。
あまりの暑さに大地が吐き出したのだろう。
そのレースのカーテンのような靄の中から
青い鉄の塊が姿を現した。


列車だ!


再び鳴り響く警笛。


あわててホームに跳び戻る。



錆びた鉄を引っ掻く
大袈裟な停車音とともに
列車がホームに到着した。


列車になだれ込むインド人達を尻目に
席を予約済みの我々は
自分達が乗る車両を落ち着いて探す。


「3AのBの2・・・ここだ!」


リュックを担ぎ上げ
右手にはミネラルウォーターを持って
乗り込む。
RAILNEER。
お気に入りのミネラルウォーター。
インドの旅で
水は必須。
18時間の列車の旅ならなおさらだ。



車内はエアコンが効いていて
涼しかった。


今回は少し贅沢をして
この旅初のエアコン付き3等車両、3Aを予約。
今日も宿に泊まらないし
バンガロールに一泊するつもりもないので
これぐらいの贅沢は許されるだろう。


3Aはエアコンが効いていて涼しいのはもちろん
肝心の寝台も
スリーパークラスとは違う。
ただ寝棚があるだけのスリーパークラスと違い
3Aは毛布にシーツ、枕まで付いてくる。
はっきりいって下手な安宿より快適だ。
ただ日差し除けの薄い色付き窓ガラスがはめ込まれているせいで
爽やかな風を浴びることが出来ないのは
少し残念だが。



朝遅かったとは言え
さすがにサンドイッチだけでは
夜まで持ちそうもない。
最初に止まった駅で
車内に乗り込んできた売り子を呼びとめ
弁当を購入。
20ルピー。


弁当の中身は
ヴァダという豆粉を揚げたもの
プーリーという揚げパン
野菜のカレーと
なんかの揚げ物
・・・揚げ物ばっかじゃねぇか。


食後にはコーヒー売りをつかまえ
コーヒーを購入。
南インドはコーヒーも美味い。
砂糖たっぷりミルクたっぷりの
泡立つコーヒーは
甘ったるいチャイと同じくインドに良く合う。


コーヒーをすすりながら窓の外を眺める。


タイヤのチューブを転がして遊ぶ
上半身裸の子供。


自転車に乗っている兄に
走ってついていく弟。


ヤギの放牧。


水場で共に過ごす褐色の牛と白い水鳥。


線路にしゃがみこみ用を足すインド人。


どこまでも続きそうな水田。
その緑とのコントラストが映える農道。
そこを走るバイク4人乗り。
その先の木陰で休む農夫達。



そのうち日が暮れ
窓の外の景色も
闇の中に溶けていった。


窓の外は黒一色。
ちょうど今読んでいる「深い河」のワンシーンのようだ。


この夜を抜ければ
バンガロール


つまらない街だのなんだの罵りながらも
3度目のバンガロール










つづく