第12章 聖なるコモリで2人目 ― in KANYAKUMARI 5 ―


救命胴衣のオレンジ色に染まった船内で
ハラハラしながら15分。


フェリーは白い波しぶきをあげながら
ヴィヴェーカーナンダ岩に到着した。


ヴィヴェーカーナンダ岩も寺院のようなものらしく
我々は船着場の傍にあった小屋のインド人に靴を預ける。


さすがに足の裏は熱かったが
海の上にあるせいか
ミーナークシー寺院よりもましに思えた。


ヴィヴェーカーナンダ岩は本当に島のように広い。
記念堂や巨大な彫像に
圧倒的な見ごたえがあるとは言えなかったが
岩にぶつかる波の音を聞き
潮風に吹かれながら
水平線の彼方や
海を隔てたカニャークマリの町をぼんやり眺めるだけでも
並んだ甲斐があったかなと思える。


物売りやガイドもほとんどいない。
大概はインド人旅行者。
修学旅行かなんかだろうか
制服を着た小学生の集団もたくさんいる。
太陽の光はさんさんと降り注ぎ
海がそれを跳ね返す。
はしゃぐ子供達と大人達の笑い声。
まさに日曜日のように平和。
あまりインドで経験したことがないタイプの観光地だ。


1時間ほどその穏やかな観光地を満喫したあとで
帰りも長蛇の列に並びフェリーに乗り込む。
そして帰りも救命胴衣はもらえなかった。



さて、時刻は2時も過ぎ
さすがに腹が減ってきた。
今日もホテル・ナンダーナーに行こう。


ホテル・ナンダーナーは今日も混んでいた。
厨房からの湯気が扇風機で掻き回され
霧のようにぼんやりとした店内。
わずか5つのテーブルには
5組のインド人家族。


「お、ジャパニ!今日も来たか!
 今フルだ!外で待ってろ。いいか、ちゃんと待ってろよ!」


レジの前に陣取る
恰幅の良い男に威勢よく遮られ
店の前でタバコをふかしながら待つことにする。


カニャークマリも暑いには暑いが
都市部の暑さとは違って
そんなに苦にならない。
ビールやペプシをおいしくする
極上のスパイスのようなものだ。


「ちわっす!日本人ッスか?!日本人ッスよねぇ?!」


ふいに日本語でチャラく声を掛けられる。


茶髪
ロン毛
やや日焼けした肌に
薄手のTシャツ
腰にはルンギーと呼ばれる布を巻いている。


「いやぁ南で日本人に会うのひさしぶりっすよ。
 いま何してんすか?」


おぉ・・・ギャル男だ。


「今から飯食うとこ。うまいよ、ここ。」


「まじっすか?!俺も行っていいっすか?!」


「もちろん。」


「あざっす!俺カミヤって言います。
 タケって呼んでください!」


カミヤのくだりいらなくね?


席が空いたので
ナンダーナーに入る。
扇風機の傍、一番手前のテーブルだ。


「いやぁでも俺、飯食ったばっかで
 腹いっぱいなんすよねぇ。」


えぇ?!


「おじちゃんペプシ!」


ペプシはねぇ!」


「じゃあラッシー!」


「ラッシーもねぇ!」


「うーん、じゃ水でいいや。」


おぉ・・・おっちゃんイライラしてるけど
まるで気にしてねぇ。
なんかギャル男ハンパねぇな・・・。


今日もおいしくナンダーナーでミールスを平らげる。
ここのオレンジのピックルは
クセが強くて実にいい。


「センパイらはどこ泊まってんすか?!」


いつの間にかセンパイになっている。


「そこのマニッカムってとこ。」


「まじっすか?!部屋見せてもらっていいっすか?!」


タケを連れ
部屋に戻る。


「おぉ!めっちゃいい部屋じゃなっすか!?
 俺の部屋なんてシーツにダニが住み着いてたんで
 シーツごとバケツの水に放り込んでやりましたよ!」


おぉ・・・ハンパねぇ。


「あ、シャワー浴びていいっすか?!」


ギャル男・・・ハンパねぇ。


タケは2度目のインド。
今回はデリーから西側を回って
カニャークマリに辿り着いたらしい。


シャワーを浴びたあとのタケと
ガイドブックを見ながら
旅の情報を交換する。
タケが持っていたのも定番ガイドブック「地球の歩き方」だった。


「あれ?なんでお前の地球の歩き方
 最初の地図のページ破れてんの?」


「いや、列車の中で紙無くて。
 破ってケツ拭いたんすよ。」


ギャル男、ハンパねぇ!


「だからパンツも無くて
 今ノーパンなんすよねぇ。」


「は?」


「いや、列車内でウ○コ漏らしたんで
 パンツ捨てたんすよ。」


ギャル男、ッパねぇ!!


「いやぁまじインドの下痢ハンパないっすよねー。」


ハンパねぇのはおまえだ!








つづく