第1章 Dare the WHO?


チェンナイ。
深夜2時。


「ジャパニ、15ルピーだ!」


いや、わかってるよ。
つうかおまえ店員じゃねぇじゃん!


売店で水を買う俺の隣に陣取るインド人。


「ジャパニ!ペプシのほうがうまいぞ!」


余計なお世話だ!
俺は水が欲しいんだよ!


この隣の男
空港の傍のプリペイドタクシー予約カウンターから
ずっと俺に付きまとっている。


深夜空港に着いた我々はまず20ドルだけ両替を済ませ
プリペイドタクシーのカウンターへ。
そこでタクシーチケットを受け取った瞬間
「ヘイッ、カモン!」
こいつだ。


どうやらタクシーのところまで
案内してくれているようだが
その前に水を買うため
俺はひとり売店へ。
すると男も売店に付いて来た。


今回はU君、ナベタクとの3人旅。
まんまと俺に騙され初海外にして初インドのナベタク。
ジャワ島を共に横断したとはいえ
これまた初インドのU君。
ここは俺がリーダーシップをとらねば。


U君とナベタクの分の水も買っておく。


「ジャパニ、3本か!それなら・・・45ルピーだ!」


いや、だからわかってるよ。


「ジャパニ!金を貸せ。俺が店主に渡してやる!」


いいよ!自分で渡すわ!


水を買い終わり
U君達と合流。
男はまた意気揚々と我々を先導し
タクシー乗り場へ向かっていく。


深夜の空港は
旅の始まりの期待と不安に満ち溢れていた。
ねっとりと絡みつく空気。
鼻をかすめるインド独特の匂い。
淡く穏やかに広がる裸電球の光と
その向こうに佇む漆黒の闇。


当たり前だが
周りを歩いているのは
顔つきも肌の色も違うインド人達。
聞こえてくる会話も
聞きなれない現地語ばかり。


その中でふいに
拙い英語が耳に入ってきた。


「ジャパニ!これだ!このタクシーだ。」


タクシー乗り場に到着したらしい。


「乗れ!ジャパニ!」


そこには運転手と思われる
気の良さそうな別のおっさん。


あれ?
じゃここまで案内してくれたこの隣の男は?
運転手じゃないの?
アンタ誰?


ひとまずタクシーに乗り込むと
男は後部座席のドアに手をかけたまま
まだなにかしゃべっている。


「××ルター!××ルターー!!」


「はっ?なに?」


「×ォルター!!×ォルターー!!」


「ウォーター?!水か?
 大丈夫。ちゃんと持ってるよ!
 さっき買ってたじゃん。」


「ノーノー!ノットウォルター!
 ポルター!ポルター!!50ルピー!!」


「なに?ポルター?!」


ポルター・・・?
50ルピー・・・?
ポルター、ポルター・・・
・・・ポーター?!!


「おまえポーターか?!!」


「イエスエス!アイム ポルター!!
 50ルピー!!」


そうか!ポーターか!
なんて訛った英語だ。
・・・つぅか、おまえ荷物運んでねぇじゃん!


「マスター!50ルピー!!」


「なんで荷物も運んでないポーターに50ルピーも払わなきゃいけないんだよ!!?
 おまえポーターの意味わかってる?!!」


入国して30分で
ふっかけられる日本人3人。
とりあえず男に10ルピーだけ渡して
タクシーは出発。
荷物を運んでもいないポーターには
10ルピーでも高すぎるくらいだったが。



妙にインドらしく始まった初日。
蒸しかえる暑さとガソリンの香り。
当面の目的地は
1泊120ルピーのパレスロッジ。






つづく