第14章 ワタシハ ガイド デス ― in HAMPI 4 ―  


さて、そろそろ約束の時間だ。


山を下りた我々は
ハンピ村の中で
一番眺めの良さそうな宿の屋上にのぼり
ペプシを飲みながら一服した後
ダラー、ウィクラムと合流した。


ハンピには
世界遺産のハンピ遺跡群がある。
本当は自転車でサイクリングも兼ねてゆったり回るのが
一番良いのだろうが
なにせ時間が無い。
ここはガイド見習いのダラーと
リクシャー運転手のウィクラムと一緒に
ハンピ遺跡群を巡ることにした。


ダラー、ウィクラムと行くハンピ観光ツアースタート!


「よし!まずは警察に行くぞ!」


「はぁ?!なんで警察?!」


「ハンピでは外国人は警察にパーミッションを貰わなくてはいけないんだ。」


確かにガイドブックにもハンピでは外国人登録が必要と書いてあったが・・・。


外国人登録なら宿のオヤジに代行頼んだぜ?!」


「いやいや、その登録じゃない。パーミッションだ。」


「それ、やらないとまずいのか?」


「んー、まぁ後でも問題ないが。
 ・・・よし、後だ。後にしよう。
 じゃぁまずは俺の取って置きのスポットに連れて行ってやる!」



リクシャーを走らせること5分。


「ここだ!」


・・・なんの変哲も無い道路脇に見えるが・・・。


「上だ!上を見ろ!ジャパニ!」


リクシャーを降りて上を見てみる。


「どうだ!すごいだろ!?
 この2枚のでかい岩が重なって屋根みたいになってんだ!」


「・・・おー・・・。」


確かに。
・・・確かに屋根みたいになってるけど・・・。


「今からもっとすごいもんが見れるぞ!?
 お、来た!牛だ!時間ぴったりだ!」


振り返ると牛飼いのインド人が
牛を何頭も引き連れて通りがかるところであった。


「どうだ?!ここは牛飼いの散歩コースなんだ!!」


「・・・・・。」


「よし、次行くぞ!」


次に連れられていったところは
だだっ広い草地の真ん中に寂しく設けられた高台であった。


「どうだ?!ここからはハンピのいろんな景色が見えるんだ。
 昔の人はここに立って・・・」


ピリリリリ・・・・。
その時ダラーの携帯が鳴る。


「ちょっと待ってろ、ジャパニ。
 ・・・もしもし。あー、今日本人を・・・。
 そうそうガイドだ・・・。・・・ははは!」


我々を放って置いて
携帯で長話をしだすダラー。


「ダラーのガールフレンドだ。」


ウィクラムが説明を始めた。


「ダラーにはここから遠く離れた都会にガールフレンドがいるんだ。
 でもあいつはお金を稼いでも酒ばかり飲んじまって
 ガールフレンドにも会いにいけないんだ。
 もっと大事にしろと言ってるんだが・・・。
 ガイド中にすまないな。ジャパニ。」


ダラーの電話が終わった。


「よし、次だ!」


次は地下にある遺跡。


「どうだ?!すごいだろ!!
 コウモリがたくさんいるぞ!!」


「へー、ここは何に使われていたの?」


「知らん。」


「・・・・・。」


その次の遺跡へ。


「どうだ?!この石造はハヌマーン神だ!
 神話の中で大活躍したんだ!」


「へぇ、どんなふうに?」


「知らん。」


「・・・・・。」


次に連れて行かれたのは
ハンピの主要な見所のひとつ
東の遺跡群だった。


「俺達は外で待っているから
 お前達だけで行って来るといい。」


疲れたのか、飽きたのか
ついにガイドを放棄するダラー。


ま、特にあまりガイドにもなっていなかったので
問題なく我々は3人で遺跡群に入場した。


おお・・・良いじゃない!


先程まで巡っていた場所も
素朴で悪くなかったが
ここはかなりクォリティが高い。
まさに世界遺産という感じだ。


入り口をくぐった直後から
石畳の床が広がり
敷地内にはたくさんの寺院が整然と並ぶ。


寺院の柱や屋根には
精緻な彫刻が施され
それが暖かな西日を受け
神秘的な表情を浮かべていた。


荘厳な遺跡群を
ゆったりと見て回っているうちに
日も暮れ始め
遺跡の見学時間が終わる頃になった。


何人かいたインド人観光客と一緒に我々も遺跡群の外に出る。


出口ではダラー達が待っていた。


「おい、お前ら、柱は叩いたか?」


「柱?」


「なんだ?知らないのか?ここの遺跡の真ん中の寺院には56本の柱があるんだ。
 その56本の柱がそれぞれ違った音を出すんだ。
 昔はその音を使って神聖な儀式をやっていたんだ。
 ・・・まぁもう5時過ぎたから入れないけどな。」


「・・・・・。」


お前そういうことは先に言えーーー!!



こいつのガイドとしての適正は大丈夫だろうか・・・。









つづく