第13章 デカンの風 ― in HAMPI 3 ―  


ハンピ村に日本人3人。
ボスの中JOE。
リトルボスの俺。
そしてクレイジーマンのO野峰。


「ちょっと待て!なんで俺だけクレイジーなんだ?!」


ダラーに問うO野峰。


「眼を見ればわかる。お前の眼はクレイジーだ。
 お前はクレイジーマンだ。間違いない。」


これまた即答。


「オー、クレイジーマーン!」


ウィクラムももちろん賛同。


出会って1時間ほどしか経っていないのに
なんてひどい言われようだ・・・。


「ところでお前らどこへ行きたいんだ。
 どこでも連れてってやるぞ?」


どうやらガイド見習いのダラーは
いろいろと連れ回したいようだったが
ひとまず我々だけでハンピをぶらぶらすることにした。
再会の約束は16時。



食事を終えた我々はまず自転車屋に向かい
レンタサイクルを借りる。
こんなもので金を取るのかというほどの
ボロチャリに乗り
村を散策。


村のシンボルとも言える
白い大きな門塔を仰ぎ見たあと
さらにサイクリングを続けているうち
辿り着いたのはマタンガ山だった。


「山か・・・。」


「登ってみる?」


「登ってみるか?!」


特に目的も無く
自転車を降り
なぁなぁで登山を開始。


茂みを掻き分け
岩山を登り
崩れかけた寺院の隙間をくぐる。


それはまるで
少年時代に興じたロールプレイングゲームの冒険そのもの。
否が応でも胸が高鳴る。



・・・そして
高鳴りすぎて息切れ。


暑い・・・。


長旅の疲れと
灼熱の太陽が
歩みを鈍らせる。


だが、ここであきらめるわけにはいかない。
こんな中途半端なところで下山したら
多分4日は後悔する!


なんとか・・・
なんとか登るしか!


・・・・・


「・・・パーパラパーパパッパパー
 パーパラパーパパッパパー。」


これだ!
このイントロだ!


ふとロッキーのテーマが口をついて出る。


「チャラーチャー!
 チャラーチャー!!」


ロッキーのテーマを口ずさみながら
ハイテンションで石段を駆け上がる。


これも修行だ!
試練だ!
忍耐だ!
次の試合勝たなくてはいけないんだ!!!


速い!
速い!!


驚くほど速いペースで
山を登っていく!!!



が、2倍疲れた。


「暑い・・・。しんどい・・・。」


「でもそろそろ頂上じゃねぇ?」


おそらく最後と思われる石段を
息を切らせながら上りきると
眼の前に壮大なパノラマが広がった。


「おぉ・・・!」


詠嘆の声が自然と漏れる。


見渡す限りの青空の下に広がるのは
ディオラマのようなハンピ村。
ここが昔、一国の首都として栄えていたとは信じられないくらい
本当に小さな村だ。


幻の都ハンピ。
「つわものどもが夢の跡」
ガイドブックにうまい例えが載っていた。
風に削られた寺院の屋根。
深く静寂を湛えた深緑の森。
無数に散らばる剥き出しになった岩石群も
妙に寂しさを掻き立てる。
道はどこへつながるというわけでもなく
ただ暗い山々へと溶けていく。


デカン高原の涼やかな風が
頬を伝った。









つづく