第7章 THE FAMILY RESTAURANT ― in CHENNAI 3 ―  


蒸し暑い夜
夕食を採るため宿の近くの大通りを散策していたときだった。
妙に明るい電飾を誇る
インドに似つかわしくない小奇麗な店が眼に留まる。
店の名前は
ザ・ファミリーレストラン


ファミレス?!
インドにファミレス?!!


ここでしょ!!ここで飯でしょ!!?


インドでファミレスなぞに出会うとは想定していなかった我々は
相当な浮かれ気分で店のドアをくぐる。


店内は昼間の安食堂とは比べ物にならないほど
清潔で明るかった。
ジュースを冷やしてある冷蔵庫もあるし
惣菜のようなものが並ぶガラスケースもある。
アイスクリームの販売までしているようだ。


ここでも日本人が来店するのは珍しいようで
すぐに店員が笑顔で駆け寄ってきて
空いている席に通された。


俺はトマトスープと
アールーパラーター、いわゆるジャガイモを生地に織り込んで焼いたインド式パンを頼み
O野峰と中JOEはカレー類を注文。


しばらくして料理が運ばれてきた。
それと一緒に他のインド人店員達も付いてきた。


我々の食事風景が見守られている。
非常に食いづらい空気だ。


トマトスープを一口すする。


すかさず店員が声を掛けてくる。


「グッド?」


「オー!ベリーグッド!!」


大袈裟に美味しそうな顔をする。


「オーケーオーケー。」


満足そうにうなづく店員達。


店員達の視線は次に中JOEへ。


「あの〜、めちゃくちゃ食いづらいんですけど・・・。」


「・・・相当なリアクションを期待されてるぜ。」


恐る恐るカレーを口に運ぶ中JOE。


すかさず声を掛ける店員。


「グッド?」


「ベリーーーグッド!!」


親指を立てこちらも大袈裟にリアクション。


「オーケーオーケー。」


満足そうにうなづく店員達。


そして店員達の視線はO野峰に移される。


隙をついて既に食事を始めていたO野峰。


同じように
「グッド?」「ベリーグッド!!」「オーケーオーケー。」
のやり取りが交わされた後
ひとりの店員が何かを思い出したように席を離れていった。


戻ってきたときに手にしていたのは
粉末スパイスの缶。


手に持ったスパイスの缶について
説明を始める店員。


「ディス イズ ベリーーホット!!
 ・・・ベリーーーーホット。」


おい、2回言ったぞ?!


スパイスの缶がテーブルに置かれる。


視線がO野峰の皿に注がれる。


使わざるを得ない・・・な。


「おい、わかってんな?!O野峰。
 そのスパイスはベリーーーホットなんだぞ?!
 すごーーく辛いんだぞ?!」


「・・・あぁ。まかせろ。」


スパイスをカレーにたっぷり振りかけ
チャパティにつけてカレーを口に運ぶO野峰。


O野峰の表情に一斉に視線が集まる。


「オオーーーベリーホット!!
 ホットホット!!ハー、ハー。」


舌を出し
悶え
嘘くさいほどのリアクションをとるO野峰。


よし、良くやった!


「オオーーホットホット!」


そう言いながら
自分の皿を
俺の前に差し出すO野峰。


・・・このやろう!俺に振るんじゃねぇ!!?


店員達の視線は一転俺へ。


・・・食いますよ。
食えばいいんでしょ。


「オオオーーー!!ホット!!
 ホットホット!!ベリーーーホット!!」


当然俺は中JOEに振る。


「オオオーー!!ベリーホット!!!」


ひと通りリアクションを確認した店員達は
満足した顔でやっとこさ散っていった。



「は〜〜疲れた。」


「・・・つーかあんまり辛くなくない?」


「うん。全然辛くないよね。」




チェンナイの夜は
まだ始まったばかりだ。









つづく