牛丼チェーンを語る男


インドで牛を見過ぎたせいか
日本に戻ってきてから
やたらと牛丼を食っている。


思えば上京するまでほとんど牛丼というものに縁が無かった。
人口8000人の地元には
お好み焼き屋は10件近くあったが
吉野家なんてこじゃれたものは1件も無く
牛丼を食おうと思えば
電車で1時間かけて都市部に出なくてはならなかった。
牛丼というものと距離を縮めていったのは上京後。
上京前に良く聴いたシーナリンゴやウタダヒカルが
俺にとって『東京の音楽』であったように
牛丼といえばまさに『東京の味』なのである。


上京後、最初は最大手である吉野家に行き
スタンダードな牛丼にハマる。
その完成度の高さはやはり当時ナンバーワンの名にふさわしく
牛丼特盛、玉、味噌汁、ポテトサラダのセットは
ある種の感動を覚えるほどの衝撃であった。
ちなみに家で牛丼を作るときは
材料に白ワインとにんにくを加えると
吉野家っぽい味になる。


それからしばらくは狂ったように吉野家に通っていたが
ある日転機が訪れる。


味噌汁50円は高いんじゃないか?!
味は良いとしてそもそも具が少なすぎるんじゃないだろうか?!
この想いが俺の足を松屋へと向かわせる。


牛丼の価格は吉野家よりも10円高いものの
油揚げとわかめがたっぷりの味噌汁が
全ての食事に付いて来るというそのサービスマインドに
甚く感激したものであった。


この松屋で今までのカレー感を覆す衝撃のメニューに出会うことになる。
カレギュウである。
この頃のカレギュウは完璧であった。
カレーと牛丼の相性は驚くほど抜群であり
牛丼の味はもちろん
カレーの味も今思い出しても圧巻であった。
最近の松屋のカレーは
安さこそ魅力的なものの
その反動としていろいろと制限があるのか
カルダモンやシナモンを多用し
味の面では迷走を続けているように思える。


これまたしばらくは松屋に通いつめたが
このカレーの味の変化を転機として
主戦場をすき家に移すことにする。


すき家の牛丼の凄さは
やはりその凡庸性の高さにある。
カレギュウ的な商品はもちろん
ネギやキムチを加えるのは当たり前。
チーズまぶしたりオクラ乗っけたりとろろぶっかけたり
明太子、高菜、果ては麻婆茄子と
もはや基盤が牛丼である必要があるのかと疑いたくなるほど
トッピングは多種多様に及ぶ。
セットの種類もリーズナブルなうえ
多様。
挙句の果てに最近では
大盛、3倍盛、ミニ盛、肉1.5倍で米半分など
牛丼自体の選択肢にも迷う始末。
すべてのメニューを試そうとすると
半年ぐらいかかるんじゃなかろうか。


大手の味に少し疲れたら
なか卯が良い。
地元広島で初めて行った牛丼屋もなか卯であった。
唯一ふるさとの味の牛丼屋で
なにかと落ち着く。
ところで紅ショウガに関してはなか卯のものが
一番好きだ。
すき家と同グループの経営だから
同じものを使ってるような気もするが
なぜかなか卯のほうが美味い。
牛丼との相性もあるのかもしれない。
ちなみにThe NAF in the SweLLのヴォーカル定兼は
なか卯で親子丼しか食わない。
絶対に。


ひとくちに牛丼といっても
店舗によってもちろん味も違うし
なによりサイドメニューの組み合わせが意外と楽しい。
各店の違いを味わい比べてみるのもおもしろいものだ。


でも結局は狂牛病問題で各チェーン主戦商品を豚丼に切り替えるなか
意固地に牛丼を出し続けていた
存在自体が未だに謎の牛丼太郎
その朝限定メニューの
納豆丼が一番好きだったりする。


もはや牛丼ですらない。


うん、
やっぱりそれほど牛丼好きじゃねぇな・・・。