第6章 そんなチェンナイの午後 ― in CHENNAI 2 ―  


食堂でミールスを腹いっぱい平らげたあとは
本日のミッション。


我々のような移動型インド個人旅行で
日々重要なのは
移・食・住。


美味い飯は食った。
宿もとりあえず安いところを確保済み。
となると
残るは『移』。
次の町への移動手段を確保しなければならない。


我々はバンガロールまでの列車チケットを予約するため
チェンナイ・セントラル駅の
鉄道予約オフィスへ向かう。


4年前の記憶を頼りに
駅構内2階の外国人用予約オフィスへ。
チェンナイのような大きな駅には
外国人専用の鉄道予約オフィスがある。
いつもインド人でごった返す普通の予約窓口で
彼らの割り込みを阻止しながら並び続ける必要も無く
旅行者にとってかなりありがたい。



浅黒い肌に白髪が映える
ベテランらしき駅員が担当。


バンガロールに行きたいんだけど。」


「いつだ?ジャパニ。」


「出来れば明日の朝。」


「オーケーオーケー!
 それならシャタブディ・エクスプレスはどうだ?
 この列車は速いぞ〜。スペシャルな特急だ!
 朝チェンナイを出れば昼にはバンガロールに着く。
 少し値は張るが・・・ノープロブレムだろ!?
 よし、シャタブディ・エクスプレスでいいな。
 出発は明日の朝の・・・」


「・・・おっさんおっさん。
 そこの掲示板にシャタブディ・エクスプレスは
 火曜日以外運行って書いてあるけど・・・。」


「ん?料金が心配か?
 でもまぁシャタブディ・エクスプレスは速いから・・・。」


「・・・いやそうじゃなくて、明日火曜日だよ。
 運休日じゃない?」


「ん?・・・あ。
 今日は・・・月曜日。
 明日は・・・火曜日か!
 そうだそうだ!火曜日は運休だ!
 シャタブディは駄目だ!ジャパニお前の言うとおりだ。ユーアーライト!
 でもノープロブレムだ!
 列車は他にもある!!
 ちょっと待て。明日だろ・・・明日明日明日・・・。」



・・・無事、列車のチケットをゲット。
チェンナイ・セントラル駅明朝7時15分発。2等予約席だ。
USドルで料金を支払いルピーも両替できた。


ひとまず今日やるべきことは完了。
一旦宿に戻ることにする。


我々がとった宿タミルナードゥは
エアコン無し、水シャワーのみ、
部屋は狭くベッドに至っては足を伸ばしきれない小ささだったが
都市部の割りに宿泊料が安く
駅から徒歩3分の立地が売りであった。


「えーと、この通りだったっけ?」


「もうちょい先じゃない?」


「いや、たぶんこっからも行けるでしょ。」


大通りに面した小さな路地に入ってみる。


大通りはさすがに舗装されていたが
ここは砂地だ。
両隣には半壊したコンクリートの建物や
作りかけのまま放置されたような煉瓦の建物が並ぶ。


奥に進むに連れ人通りも無くなって・・・
・・・いやそもそもこの路地に入ったときから人通りが無かった気が・・・。


さらに奥に進むと
いかにも柄の悪い青年達が
路地端に腰掛けているのが見える。
脇にはスピーカーが置かれ
低音の効いたインドポップスを大音量で垂れ流し。


彼らもこちらに気づいたようで
仲間内でなにかしゃべっては時折下品な笑い声をあげ
ニヤニヤしながら我々の動向を探っている。


・・・やばい気がする。


出来る限り平静を装い
その横を早足で通り過ぎる。


「ハロー!!」


!!!


声を掛けられた。


「ハ、ハロー!!」


とりあえず挨拶だけ返し
さらに路地の奥へ早足で進む。


「ギャハハハハ!!」


背後から奴らの笑い声が聞こえる。
振り返ると
奴らは変わらずニヤニヤとこちらを見ている。
時折なにか仲間内でしゃべっては笑い声を上げるのも変わらずだ。
視線は我々から外さない。


デリーでインド人5人に囲まれたときの記憶が蘇る。
奴らも「キマって」るんじゃないだろうか?!


「ここ・・・俗に言うスラム街だよね?」


中JOEが不安そうにつぶやく。


「絶対この道間違えてるでしょ?!」


O野峰が焦る。


「やばいでしょ?!ここ!!」


「戻ったほうが良さそうだな・・・。」


「またあいつ等の前を通って?!」


「それしか無くね?!」


「このまま進んだら帰ってこれない気がする・・・」


「・・・・・。」


意を決して来た道を引き返す。
我々が近づくにつれ
奴らのテンションが上がっていくのが判る。


「ハーーイ!!ジャパニーーー!!」


今度は右手を挙げている。
ハイタッチの要求だ。


「ハーーイ!!」


ハイタッチ完了!


「ハーーイ!!アイラヴジャパーーン!!」


今度は別の奴が握手を求めてくる。


「ハーーイ!!アイラヴインディアーーー!!」


握手完了!!
なぜか手が濡れている。
なになに?!なんで?!!


「ジャパニーー!!ギャハハハ・・・!!」


「オーアイアムジャパニー!ハーハー!!」


「ハローハロー!!」


「オー、グッバーイグッバーイグッバーイ・・・!!」


・・・・・


なんとか通過。


無事大通りに帰還する。


・・・疲れた。
無駄に疲れた。



裏通り怖ぇ・・・。









つづく