第1章 出国前夜


深夜。


重いリュックを担ぎ
駆け回る3人。


闇に浮かぶ白い布と
鉄の塊。


奴らの肌は漆黒の闇に溶け込み
向かう先に光は無く
この道とエンジンを切ったタクシーの列は
果てしなく続くかのように思える。


ここはデリー。


3度目のインドは
エアインディアの到着2時間遅れから始まった。



1ヶ月前。


本屋をぶらぶらしていた俺は
ふと旅行ガイドブックコーナーの前で立ち止まった。


棚には『地球の歩き方』というガイドブックの
2007年度版と2008年版が並べられている。


2008年版?!
えっ?これって最新版じゃん?!
出たばっかじゃん?!
買うでしょ?!
なにかの縁でしょ?!
神(インドの)の啓示でしょ?!!


そして漫画の最新刊でも買うような感覚で
迂闊にもガイドブックの最新版を衝動買い。


買ったからには
行くしかないという気分になり
翌日の昼にファミレスでO野峰を口説き
その日の夜、居酒屋で中JOEを口説き
3度目のインド訪問
約1週間のド短期旅行が決定した。


O野峰とはインドネシアを横断して以来の再タッグ。
中JOEは初海外旅行。
幸か不幸かそれがインドである。



3度目のインドということで
あんなに痛い目にあった2度目のインドの時以上に
旅行をナメまくっていた俺は
出発前夜の夜から荷造り開始。


しかし、ここで思わぬアクシデントが。


パスポートが見当たらない・・・。


しかも俺の分ではない。
・・・O野峰の分だ。


当時O野峰は某メガバンクの宇都宮支店に勤務していた。
そこで俺がパスポートを預かり
東京でO野峰の分のインドビザも代行申請することになった。
そのパスポートをビザ取得後も出発間際まで俺が持っていたのだ。


・・・無い。
O野峰のパスポートが無い。
・・・やばい。
どこいった?!


時計はもう0時を回っている。
明日は5時起きだ。


焦りが募る。
このままではO野峰はインドに行けない。
(俺は行けるが。)


部屋中を探し回る。
かばんの中
ベッドの下
引き出し
服のポケット。


探せば探すほど部屋が散らかっていく。
散らかっていては探しづらいと思い
不要なものをどんどん燃えるゴミのゴミ袋に入れていく。


そこからさらに1時間探し続けるも
見つからない。


ここらへんで明日成田でO野峰に土下座しようという
あきらめが脳裡をよぎる。


・・・いや、さすがに謝っても許されないだろう。
焦りと不安と罪悪感に押しつぶされそうになってきたので
気分転換に外のゴミ捨て場にゴミを捨てに行こうと
ゴミ袋に手をかけたときだった。


あ、もしかしたら・・・。


最後の望みを託し
燃えるゴミ袋の中身を物色する。





・・・あ、あった。


捜索開始から2時間。
O野峰のパスポートは
ついに見つかった。


燃えるゴミのゴミ袋の中から。


あぶねぇ・・・。
このゴミ捨てに行ってたら・・・。



もちろんこの1件は
当のO野峰には内緒にしてある。






つづく