第42章 Holi

部屋で待機。


まずは様子見だ。
デリーでのホーリーは果たして危険なのか。
果たしてどれほどの祭りなのか。


陽が完全に落ちた頃
外がにわかに騒がしくなってきた。


人々のざわめき。
掛け声。
歌。
太鼓の音。
笛の音。
それらが徐々にうねりのように重なっていく。



「・・・行くか?!ホーリー!!」
我々は部屋を飛び出し
足早に階段を駆け下りる。
ロビーを抜け
ホテルの外に広がっていた景色は・・・


インド人
インド人
インド人
インド人
インド人。


なんじゃこりゃぁ!?


我々の泊まっているスターパラダイスは
メインバザールを少し外れた路地の奥にある。
その細い路地にこれでもかというほどひしめくインド人達。
顔や頭、服、靴
ほぼ全身が赤や黄色の色粉まみれだ。
小太鼓打ちがリズムを刻み
ホテルや近隣の店から漏れるわずかな光の中
インド人達が掛け声を合わせ狂喜乱舞。
どさくさにまぎれて
いかにも偉そうなターバンと立派な髭のオヤジにたかる
ホテルの従業員の若者。
少し渋りながらも金を渡す金持ちターバンオヤジ。
その金を小太鼓打ちにそのまま渡すホテルの従業員。
さらに加速するリズム。


目の前に広がる光景に圧倒され
しばらくはホテルの入り口の前に呆然と立ち尽くしていたが
ふいに背の低いインド人が近寄ってきた。


「ノープロブレム!!」
一言そう発したかと思うと
いきなり額に色粉を塗りたくられる。
そして俺の腕をつかみ


「カモン!ノープロブレム!!」


2度目のノープロブレム。
もう行くしかない!


そして俺も輪の中へ。


インド人と手を取り合い
同じように掛け声を発し
見よう見まねで踊る。


舞い落ちる色粉。
すべてが夢の中のような
幻想的な空間。


ホテルに宿泊している欧米人が
「うるせぇよ!!」
とばかりに3階の部屋から水を放り投げるが
まさに焼け石に水


回る。
揺れる。
回る。
揺れる。


気がつけばいつの間にか
俺を含めた人の輪は裏路地から脱し
メインバザールの大通りに出ていた。
大通りに出たことで他の集団とも合流。
さらにうねりが大きくなる。


見ず知らずのインド人の肩を抱き
声を上げ
踊る。


踊る。


そしてその人の渦が
大通りからさらに移動し始めたとき
誰かに服を掴まれ声をかけられる。


ん?誰だ。


「ヘイ、ジャパニ!
 これ以上は危険だ!!
 宿に戻れ!!」


良く見るとホテルの従業員だ。
ふと我に返り、周りを見渡すと
M上がやけに遠くに見える。
M上もホテルの前から俺を呼んでいるようだ。


確かに・・・潮時かな。


興奮冷めやらぬなか
俺はホテルの従業員に引き連れられ
スターパラダイスに戻った。


もちろんその後も響き続ける祭りの音。



ホーリー
その夜は更けることなく。



明日の夜
我々はインドを発つ。





      つづく