第40章 FROM VARANASI TO DELHI ― IN THE NIGHT ―


インドでハズレなくうまかったもの
チャイ
サモーサ
そして、列車内で飲むトマトスープ。


インスタントのスープの素が入った紙コップに
お湯を注いでもらう。
レストランでも凝ったトマトスープを出すところがあるが
やはりこのインスタントのシンプルで安定した味わいが良いのだ。
北インドの肌寒い夜に
隙間風吹く列車内で飲む温かいトマトスープは
列車の旅をよりいっそう豊かにする。


日もすっかり暮れてきた。
デリーに向かい
なおも列車は走り続ける。


ちょうど肌寒くなってきたころ
列車は途中停車駅に止まった。


「チャ゛〜〜〜〜イ、チャイチャイ・・・
  チャ゛〜〜〜〜〜〜イ、チャイチャイ・・・。」


このインド旅行で何度も聞いた
馴染み深い声が響く。
駅で列車が停車している隙を狙って
チャイ売りが列車に乗り込んできたのだ。


紙コップを持っているチャイ売りが狙い目だ。
やつらはトマトスープも持っている。
ヤカンと素焼きの器の束を抱え
生(?)のチャイだけ売っている者もいるが
紙コップチャイ売りはかなり高い確率で
インスタントのチャイとトマトスープを売っている。
我々は紙コップチャイ売りを捕まえ
トマトスープを購入。


一息ついたところで
再び列車は走り出した。


そして窓の外が真っ暗になったころにも
列車は駅に止まった。
我々はサモーサなどを買い
軽めの夕食を採る。


数十分の停車の後
列車がまた走り始めると
列車内がにわかにざわめきだした。


だれともなしに座席をベッドに組み替え始め
我々の組もそれに倣い自分達の席を
ベッドに変える。


デリーに着くのは
明日の早朝。
まだ夜10時程度だったが
周りのインド人達は早々と就寝準備を始め
3段ベッドの1番下
長旅の疲れからか
俺もすぐに眠りに就いた。


が・・・


・・・うーーーーん・・・寒い・・・。
あまりの寒さに目が覚める。
体を起こすと信じられない光景が。


通路を挟んで向かいのベッドで寝ているインド人が
まさかの窓全開!


殺す気か・・・?!


北インドでは
この時期昼は30度弱
夜は十数度まで気温が下がる。
列車内に掛け布団などもちろん無い。
上着が掛け布団代わりだ。
風が直撃し極寒である。


・・・なんでこいつ窓開けてんだ?
こんな寒いのによく寝ていられるな・・・。



・・・閉めてしまおう。


暑いはずが無い。
暑いはずが無いんだ・・・。
そう自分に言い聞かせ
暑がりインド人を起こさぬよう窓に接近。


物音を立てぬよう細心の注意を払い
ゆっくりと窓を閉める。


ギ・・ギィィーーーーー・・・・


こぉのボロ窓がぁぁーーー!!


おそるおそる左下を向くと
暑がりインド人が仰向けのままこちらを凝視している。


やばい・・・起こしてしまった・・・。


一瞬見つめあった我々だが
暑がりインド人はそのままの体勢で顔色一つ変えず
「ノープロブレム。」
そして再び目を閉じる。


え?!どっちだ?!
閉めてもノープロブレムなのか?!
それとも開けたままで俺はノープロブレムだから
そのまま開けとけってことか?!


しかし迷う余地は無かった。
俺が風邪をひきかねん。
暑かったら暑がりインド人がまた自分で開けるだろうということで
窓は閉めたまま
俺もベッドへ。



風の吹き込む音は消えた。
聞こえてくるのは
インド人の寝息と
列車の走る音。


その音は
刻々と近づく旅の終わりへのカウントダウンのように
北インドの夜に響いていた。



列車はデリーへ。





      つづく