第37章 IN VARANASI 5

ヴァラナシ最終日、ゴールデンロッジにて俺に異変!
2週間ほど続いていた下痢状態からついに復活したのである。


もはやカレーごときでは腹を壊しようもない。
生水だっていけるんじゃないかと思うほどの
復調ぶり。


このインド旅行も残りわずか。
ここへきて一番欲しかった免疫ができたのである。


長かった・・・。
実に長かった。
好きなビールも控え
めくるめく素晴らしいインド料理の世界からも一歩ひき
アグラーまで行ってタージ・マハルをシカト
さらにはM上と『歩くスピードが違う』という訳の分からない理由でケンカしながらも
耐えに耐え続け手にした結果である。


逆にM上は、とある紀行エッセイに影響を受け
ガンジス河でバタフライという奇行を行ってしまった後遺症で
若干腹を壊していた。


余談だがガンガーに免疫が無い日本人が浸かってしまうと
体中の穴から細菌などが入ってきて
体調を崩してしまうという俗説がある。


打って変わって
蒸留水の中で24時間生きられるコレラ菌
ガンガーの水では3時間程度しか生きられないという実験結果もあるらしく
その『聖なる河』の実力は科学的に認められているらしい。


俺には
コレラ菌を殺してしまうほど『はるかに強い』なにかが生息しているため
そういう結果になっているとしか思えないが・・・。


今日でヴァラナシを発つ。
そんなガンガーともお別れだ。


そして
モヌーともお別れ。


我々はモヌーの家に向かい
そこで今日中にヴァラナシを発つことを伝えた。
M上はモヌーの店で服を買い
モヌーの母に足の甲にメヘンディを施してもらった。
メヘンディとは
ヘナという植物を使って手や足に模様を描くものだが
本来は女性の結婚や妊娠、出産、お祭り等にあわせて描くものらしく
後日レストランのインド人従業員にからかわれることになる。
俺もどうも埃をかぶってしまっている
小物を何品か購入。



モヌーと何年か後の再会を約束し
荷物を取りに宿へ戻る。



ゴールデンロッジに隣接している
ファジンズというレストランで一服。


さて、インド旅行も終盤に来て
またもや手元のルピーが底を突いてきた。


レストラン入り口あたりにいつも座っているちょび髭メガネのオヤジに
相談を持ちかける。
ところでこのオヤジはいつも何をしてるんだろう?
レストランの関係者らしいのだが
いつも座って雑誌を読んだりテレビを見たりしているだけだ。
この間も店に従業員が誰もいなかったので
このオヤジに注文しようとしたところ
どこからか従業員を連れてきて
自分はまたいつもの席に座りテレビを観賞しだしてしまった。
とにかく普段はまったく仕事をしている様子が無いのだ。



「なんだ両替屋を探しているのか?」
今日もだるそうだ。


「ああ、ルピーがもう無いんだ。」


「いくら両替したいんだ?」


そうだなぁ・・・ツケにしてもらってるここの宿代と飯代も払わないといけないし
列車のチケット・・・
おみやげとかもあるからなぁ・・・。
「60ドルずつで120ドル分かな・・・。」


その言葉でオヤジの目の色が変わる。
「俺がやってきてやる!!」


ハッ?!


いきなりの申し出で一瞬驚いたが
そこら辺に歩いているインド人が闇両替を持ちかけてくるくらいだ。
よく考えるとそんなに珍しいことでもない。


そこら辺を歩いているやつらと違って
身元もはっきりしていることだし
レートも聞いてみるとそんなに悪くない。
我々は2人分120ドルをそのちょび髭メガネのオヤジに渡し
両替をお願いすることにした。


オヤジは
ドルを受け取った瞬間
「オーケー、ノープロブレム!!」
と一言残し
いつものだるそうな姿からは想像できないほど俊敏な動きで
店を飛び出していった。
こんなときに聞く「ノープロブレム」は
不安を募らせるだけだ・・・。


5分後
オヤジが大量のルピー札を抱え
息を切らせて帰ってきた。


「オーケー?」


例のごとく何の断りも無く
仲介料としていくらか引かれていたが
まぁ納得できる額だったので特にそのことには触れず
とにもかくにもルピーを入手。



そろそろ出発だ。
ツケにしてもらっていた
ゴールデンロッジの宿代と
ファジンズでの飲食代を払うため
初日に熱烈にオムライスを勧めてきたオーナーを呼び寄せた。


伝票を持って現れたオーナーのオヤジ。
代金の合計を確認するため
我々の前で伝票を読み上げ始める。


「あーー、コーラ・・・コーラ・・・スプライト・・・トマトカレー・・・チャーイ・・・チャーイ・・・チャイ・・・
 チョウミン・・・サモーサー・・・オレンジジュース・・・」


2人分だけど結構食ったなぁー。


「あーーー、マンゴージュース・・・ビルヤニ・・・ラッシー・・・」


あれ?M上、ビルヤニなんて食ってたっけな・・・?


「あーーーー、オムライス・・・オムライス・・・オムライス・・・
 オムライス・・・オムライス、オムライス!」


・・・・・


ちょっと待てーーい!!
こんなにオムライス食ってねぇぞ!!?


どうやら我々と
既にネパールへと旅立っているメガネの男と金髪の男は
4人組グループだと思われていたらしく
あの2人がツケで飲み食いしていた代金も
請求されているようだ。
まさかの日本人2人食い逃げ!!


そのしわ寄せは
同じ日本人の我々に・・・。





      つづく