chapter10 両替屋で遊ぼう ―後編―


まんまと両替闘争に敗れた子分の仇をとるため
そしてなにより己自身のプライドのため
ついに立ち上がったアニキ。


アニキの口が重々しく開く。
「何ドル分だ?」


「20ドルだ。」


「20ドルならこのレートだ。」
電卓をたたき出すアニキ。
そのスピードは子分の少年のそれを
はるかにしのぐ。


が、提示されたレートは
彼らの言う夜レート。


「・・・おいおい、だから外に張り出してたレートと違うじゃねぇか。」


平然と返すアニキ。
「あぁ、あれは昼間のレートだ。今は夕方だから夜のレートだ。」


面倒なことに同じことの繰り返しだ。
「・・・待て待て。それなら両替しねぇよ。じゃあな。」
そしてまたも我々は振り返り店の外へ出るふりを。


するとお決まりのようにアニキも止めに入る。
「オーケー!ウェイト!ウェイトジャパニ!!
 そのレートでOKだ!!カモン!!」


非常に面倒な通過儀礼を経て
いよいよ両替開始だ。


「オーケー。じゃあこのレートだな?」


・・・が、アニキはここからが違う。
提示されたレートはまたも夜レート。


「おい、だから表のレートと違うじゃねぇか。
 表のレートで両替するって聞いたから来たんだぜ?」


「あれは昼のレートだ。もう銀行も閉まってる。夜レートだ。」


「そのレートなら両替しねぇ。じゃぁな。」
我々が背を向けると


「オーケー!ウェイト!ウェイト!!カモン!!」


「オーケー。じゃあ表のレートがこうだから・・・」
再び電卓を叩くアニキ。


「これでオーケーだな?」


夜レート。


しつこい・・・。
「だから、違うだろ?」


「もう日も暮れかかっている。夜レートだ。」


お前らとのやりとりのせいで
日が暮れてんだろうが!


「だからそのレートなら両替しねぇって。じゃぁな。」
だんだん面倒くさくなってきた。


「オーケー!ウェイト!ウェイト!!カモン!!」


ここでやっと表のレートでの取り引きが合意に至り
両替がスタート。


アニキは箱からインドネシアのルピア札を取り出し
少年と同じように確認のため我々の目の前で数えだす。


「ワン、ツー、スリー、フォー・・・・」


「ファイブ、シックス、セブン・・・」


そしてこれまた少年と同じく
セブンあたりでアニキの右手が素早く動き
10000ルピア札が1枚カウンターの向こうへ。


「エイト、ナイン、テン・・・」


そしてテンあたりでもう1枚。


さすがはアニキ。
少年とは抜く枚数が違うのだ。


そのまま何事も無かったかのように数え続け
数え終わった札束を我々に渡す。
「20ドル分だ。オーケー?!」


「いや、お前、金、抜いただろ?」


すると少年がアニキの近くに寄ってきて
耳打ちする。
「アニキ!こいつらにそれは通用しねぇぜ。」
といったところか。


動揺したアニキは我々のほうに向き直り
「こ、これは実は俺がもらう手数料分だ!」


あのーー言ってる意味が解らないんですが・・・。


・・・


こんなことを繰り返すうちにすっかり顔も覚えられ
店の近くを通るたびに声をかけられるようになった。


「ヘーーーイ、ジャパン!!ハローーー!!」


そして挨拶ついでに
「ジャパン!マネーチェンジ?!」


そして一人で両替に向かうと
近所の大人や子供を集めて
ギャラリー付きで両替が始まる。


みんなアニキVS日本人の試合を見に来るのだ。


インドネシアで暇になったら
少年がやっている小さな両替屋へ行くといい。
ちょっとしたエンターテイメントが楽しめる。