第35章 IN VARANASI 3


朝・・・目は覚めているのだが
体が非常に重い。風をひいた時の様に喉も痛い。ダルい。ふらふらする。


部屋はコンクリート造りの狭い密室。
どうやらそこで寝てる間中蚊取り線香を炊いていたのが失敗だったようだ。


重い体を起こし、窓は開かないため部屋のドアを開けて換気をする。
しばらくすると落ち着いたのでとりあえず朝食代わりにチャーイ。
ヴァラナシには何泊かするつもりだったのでゴールデンロッジを拠点として
俺、M上、メガネの男、金髪の男とも
皆思い思いバラバラにガートへと出かけていった。


ガートをひとりでぶらぶら。
相変わらず客引きは多い。
定番のチョコォ、ハシ〜シ〜、マリワーナ〜、マネーチェェェェンジに加え
ここヴァラナシではポストカード、ボート、シルクが大ブレイクだ。
中には「ハロー!」と突然声をかけてきて
握手を求め、
そのうち腕を掴み、
挙句の果てに腕を揉みだし
「マッサージ!20ルピー!!」
と言い出す強制マッサージ屋もいた。(この間わずか10秒)


さらにぶらぶらしていると
河沿いでサッカーをやっている少年達を発見。


サッカーといってももちろんゴールネットなどは無く
どうやったら点が入るのかわからないようなものだ。


しばらく様子を見ているとそこに同じ宿の金髪の男もやってきたので
2人でそのサッカーに参加することにした。
程無くバックパックを背負った欧米人も加わり
交流戦スタート!


広いガートで躍動するボールと少年といい年した外国人達。
俺を抜きにかかってきたインド少年ドリブラーのボールを
大人げなくカット。


さてサッカー先進国(インドに比べて)の日本人の実力を見せてやるか・・・。


俺はパスというものは人に出すのではなく
スペースに出すものだと思っていた。
そこに人が走りこむのだ。
そして俺の絶妙なスルーパスが前線のスペースへ炸裂!
「おし、完璧!」


しかし相手は少年。
当然追いつけずボールはガンジス河へボチャ。


やべ・・・。
「ソーリー・・・。」
恐る恐る謝る。
すると少年はガンジス河に飛び込み
ボールを取り戻し、満面の笑みで
「オーケー!!ノープロブレム!!」


『ノープロブレム』
おそらく旅行者がインドで1番耳にする英語であろうが
このときほどすがすがしい『ノープロブレム』はかつて耳にしたことが無かった。


ガンガーの水で清められたボールで
引き続き日印交流戦を楽しんだ俺だが
試合が一段落したところで少年達に別れを告げる。
金髪の男ともまた別行動だ。



炎天下の中サッカーをしたことでのどが渇いている。
コーラでも飲むか。


その辺にあった売店でよく冷えたペプシを買い
河沿いに座って一服。
コーラを飲み終えた後は
瓶を近くの店のごみ置き場みたいなとこに捨て
またもガートをぶらぶら。



日も落ちてきたしそろそろ帰るか・・・。
と宿へ向かっている途中に
背後から猛スピードで足音が迫ってくる。
そしていきなり肩を掴まれた。
「ヘイ!ジャパニ!!」


ん?また客引きか?


「おまえコーラの瓶どうした?!」


あ、さっきの売店のオヤジか。
しかしものすごい形相だ。


再び繰り返す売店のオヤジ。
「コーラの瓶はどうしたんだ?!」


瓶・・・?
いや他の店に捨てたけど・・・。
あ!!
そのオヤジの焦りと怒りに満ちた鬼気迫る形相を見て
ようやく状況が理解できた。
おそらく瓶を業者に返すことによって
いくらかお金を還元してもらえるのだ。
俗に言うリターナブル瓶というやつか。
やばい・・・。瓶、別の店に返しちゃったよ・・・。



さすがにその人でも殺しそうな形相を見ては
瓶を別の店に捨てたとも言えず


「あ、あぁ。ちゃんとお前の店に返しといたよ・・・。」
と言うと


「そうか。ならいいんだ。」
とオヤジはズカズカと戻っていった。



それにしてもものすごい形相だった・・・。
夢に出そうだ・・・。
リサイクルが環境とか資源のためとかじゃなく
生活のためだもんなぁ・・・。
悪いことしたな・・・。



そんなことを考えつつ宿の近くまで戻ると
宿の近くの店から聞き覚えのある話し声が聞こえてくる。
民家の窓をキヨスク風に改造してある小さな店だったが
中を覗いてみると
M上、メガネの男、金髪の男が勢ぞろいしていた。
M上が中を覗く俺に気付いたようだ。
「おぅ!お前も入れよ。」


M上達と話しているのは小柄な少年。
どうやらここはその少年の家のようだ。


少年モヌーとの出会いであった。





      つづく