第34章 IN VARANASI 2

ヴァラナシと言えばガンガー(ガンジス川)。
そしてガンガー沿いに無数に連なるガート(沐浴場)だ。
我々も例に漏れずガンガーに向かい宿を出発。
しかし、我々の泊まっている宿「ゴールデンロッジ」は
ガンガーから近いとはいえ少々奥まった路地にある。


ヴァラナシの裏路地は迷路のようだ。
昼間でも薄暗く
ところどころに野良牛。そして野良牛の糞。
道をふさぐ野良牛の横を通り抜けるときは結構緊張する。
曲がり角を右に曲がり、次に左、そしてまた右・・・というふうに進んでいくと
前方にみやげ物屋らしきものが見えた。


みやげ物屋のオヤジが手招きしている。


なんだ?またしょうもないものを売りつける気か?


どのみち通り道なので我々も店の方に近づく。
なおも手招きを続けるオヤジ。
「ヘイッ!カモン!!ヘイヘイ!!」


目の前まで近づくと・・・


「ガチョーーーーン!!」


・・・まったく意味が分からない。
無視して店の前を通り過ぎる。


なおも我々を呼び止めるオヤジ。
呼び止めて何をするかというと


「ガチョーーーーン!!」


別の店のオヤジもだいたい同じだ。
我々が店に近づくと・・・


「ヘイッ!ヘイヘイ!・・・ダッチューーノ。」


まったくの無表情だ。むしろ怖い。
しかも一昔前。


道行く男もすれ違うときにいろいろ囁いてくる。
「マリワナ〜チョコ〜ハシ〜シ〜マネ〜チェェェンジ・・・」


「ルンギ〜コシマキ〜タ〜バン〜バンダ〜ナ〜シル〜ク、グッドシルーク・・・」


こいつらはほんとに物を売る気はあるのだろうか?
どうにも気だるそうだ。


そうこうしてるうちにガートに到着。
目の前には広大なガンガーが広がっていた。


すごい・・・。


ガンガーで沐浴するたくさんのインド人達。
特別大きい河でも
特別きれいな景色と言うわけでもない。


ただそれでもその河に強く魅きつけられた。


ガートのそばの階段に腰を下ろし
ただただボーーーッとガンガーを眺める。
時間の流れが緩やかになる。


が、すぐに引き戻された。
インド人の若者が声をかけてきたのだ。
何の用だ?と振り返ると・・・


「ゴチニナリヤスッ!!」


・・・いや、しねぇから!!
まぁ顔似てるけども・・・。


今度は少年が近づいてきた。
「ヘイッ!ジャパニ!ポストカード!!」


どうやらポストカードを売っているようだ。
30枚くらい束で渡される。


1枚目・・・ガンガーの周りの景色の写真だ。


2枚目・・・インドの神様が描かれている。


3枚目・・・なぜかタージマハル。


4枚目・・・あれっ?これ1枚目と一緒じゃねぇ?!


その後何枚か見るがどうやら結構絵柄がかぶっている。


「ヘイッ!20ダラー(約2500円)!!」
いやいらないから。


「オーケー・・・50ルピー(約150円)!!」
・・・一気に下がったな。でもいらない。


その後もどんどん値段を下げていったが売れないことが分かると
少年は俺からポストカードをふんだくり
最後に日本語で捨て台詞
「バーーーカ!!クルクルパーーー!!」


ダメだ・・・荒らされてる・・・。
そういえば川沿いで会ったおっさんが
「昔の日本人はまじめで礼儀正しくて良かった。おまえらみたいなバカ学生が来るようになってからどんどん聖地があらされていく!!」って愚痴ってたなぁ・・・。



その後もゆったりと川を眺めているとM上がある提案をした。
「そういえばうちの兄貴が前インドに来たときにさー、
 ヴァラナシでパプーっていう面白い顔のシルク売りに会ったらしいんだよね。
 そいつ見にいかねぇ?!」


「え?なにそれ?そんなおもしろいの?(顔が)」


「あぁ。俺も写真見たけどすげぇおもしれぇよ。(顔が)」


「じゃ見に行くか!!」


そしてそこら辺の客引きっぽいインド人に手当たり次第声をかける。


胡散臭いリアクションをする客引き達。
「オォー!!パプー!?アイノウ、アイノウ。パプー イズ マイフレンド!!」


で、付いていくと店の親父が
「パプー??アイム ノット パプー。バット ジス イズ グッド シルク!!ルック!!」


「いや、シルクはいらない。」


・・・この繰り返しだ。


しかし、何件目かのシルク屋に入り
店主らしいオヤジを見た瞬間
M上が叫ぶ。


「パプーだーーー!!ハッハッハ!!やっと会えた!!ハッハッハ・・・!!」
人の顔を見るなり大笑いする失礼なM上。
たしかにおもしろい。漫画のような丸い顔におかしな化粧をしている。
しかし、パプーは客引きの為わざと笑われるような化粧をしているのか
気にした様子も無く話しかけてきた。



「おおーー!!ハロー!ジャパニ!!うちは良いシルクをたくさんおいてるんだ!!見てくれ!!どうだこのスカーフなんか?」


「こいつだこいつ!!パプーだパプー!!」


「なんで俺の名前を知ってるんだ?確かに俺はパプーだが・・・。それよりどうだこのスカーフとか?これはすごく良いシルクを使っていて・・・。」


「いやぁ、俺の兄貴が昔インドに来たときあんたと写真撮ってるんだよ。M上って名前のやつ憶えてない?」


「M上・・・。あぁもちろん憶えているよ!あの日本人の・・・。それよりどうだ?このバンダナとか?これはすごく良いシルクを・・・。」


・・・このリアクションからすると絶対憶えてねぇ。


「いやぁあんたに会えてうれしいよ!!俺はそのM上の弟だ!!はっはっは、パプーだよおいっ!!」


「おぉそうか!君があの日本人の弟か!!私も会えてうれしいよ!!ところでどうだ?このターバンなんか??これもすごく良いシルクを・・・。」


「ちょっと写真撮らせてくれよ!!せっかく会えたんだし!!」


そして強引に記念撮影。


「OK。これで大丈夫か??ところでどうだ?このスカーフとか?これもすごく良いシルクを・・・。」


「オーケー!!サンキュー!!いやぁあんたに会えて良かったよ!!じゃあな!!」


写真を撮るだけ撮ってそそくさと店を後に。


「え?!もう帰るのか??ちょっとこれ見てくれ!どうだ?このスカーフとか?これはすごく良いシルクを・・・。


「グッバイ!!パプー!!」


「おい!!待て!!待ってくれジャパニ!!どうだこれ??このスカーフなんて?これはすごく良いシルクを・・・。」



・・・・・





      つづく