chapter6 Is there Dolphins ? 後編


まさかの4時半起きである。
陽もまだ昇りきっていない。


我々はトイレを済ませ
寝ぼけ眼で海岸に向かう。


ここロビナではイルカウォッチングが名物だ。
自分達の乗っているボートの横を無数のイルカが併走して泳ぐらしい。


それはそれでとても素敵な光景なのだろうが
なにぶん体調が悪い。
海上で下痢状態になってしまったら終わりなので
朝飯も抜いてきた。



5分ほど歩いて海岸に到着。
なだらかな砂浜が果てしなく繋がり
その向こうには見事な水平線が広がっている。
砂浜にたたずむひとりのおっさん。
このおっさんがボートを運転するらしい。
おっさんの隣にはボート。


ボート・・・。


ボート・・・?


ん、ボート?!


「細ッ!!ボート細!!」


「これ、ボート?!ねぇ、これほんとにボート?!ほんとにこれをボートと呼んでいいのか?!!」


「ほとんどカヌーじゃねぇか!!!」


まさにそのボートはカヌーにエンジンをつけただけのような代物だった。


もちろんその細さでは
向かい合って座るどころか
隣り合って座ることすら出来ず
俺・U君・O野峰・おっさんと
縦に4人座ることになった。


そしてけたたましいエンジン音とともに出発。



初めの頃は水平線にかかる虹や
遠くに見える他のボートとの競争に
興奮を覚え
テンションもあがっていったが
それも一時的なものだった。


いないのだ。
肝心のイルカが。


もう1時間以上も海上をさまよっている。
インドネシアの太陽はとっくに顔をあげており
徐々に陽射しも強烈なものになってきている。
あれほどいた別ツアーのボート達も次々と海岸に引き返していった。


我々の言葉数も少なくなってきた頃
一番後ろの席から
パイナップルの切れ端を回すおっさん。
自身の朝食のはずだったろうが
あまりの気まずさに耐え切れなくなったのだろう。


さらに10分・・・。
そしてまた10分・・・。


「ソーリー、帰ろう・・・。」
おっさんがつぶやいた。


夜も明けきらない早朝からおよそ2時間。
何の収穫もないままボートは陸に戻ってきてしまった。


海岸にはボートの帰りを待つ数人の物売り達。


おいおい、今俺たちはお前らの相手が出来るテンションじゃねぇぞ〜・・・。


体調不良をおして早朝から長時間ボートで海を駆けずり回った挙句
イルカの『イ』の字も見えなかったショックで
我々はかなりグロッキーである。


そんな空気を読めない物売りが近づいてきた。


差し出した手のひらに乗っているのはイルカの模型・・・。


そして満面の笑みで一言。


「ヘイッ!!イルーカ?!!」


「いらねぇよ!!!」